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最高裁判例 調査官解説批評review


じん肺管理区分に係る決定に対する取消訴訟の遺族への承継の可否
(平成29年4月6日第一小法廷判決民集71巻4号637頁)
濱 和哲(大阪弁護士会)

第1 事案の概要及び判決内容

  建物の設備管理等の作業に従事する労働者であった亡Aは、福岡労働局長に対し、じん肺法15条1項に基づくじん肺管理区分の決定の申請をしたところ、福岡労働局長は亡Aに対し、管理1に該当する旨の決定(以下、「本件決定」という)をした。
 これに対し、亡Aは、じん肺健康診断の結果によれば管理4に該当するとして、本件決定の取消訴訟を提起した(以下、「本件訴訟」という)。
 亡Aは、取消訴訟の第一審口頭弁論終結後に死亡したため、原審においては、亡Aの妻子であるXらによる訴訟承継の可否が争点となった。
 最高裁は、訴訟承継の可否について以下のとおり判示した(以下、「本件判決」という)。
「管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等が当該決定の取消しを求める訴訟の係属中に死亡した場合には、当該訴訟は、当該労働者等の死亡によって当然に終了するものではなく、当該労働者等のじん肺に係る未支給の労災保険給付を請求することができる労災保険法11条1項所定の遺族においてこれを承継すべきものと解するのが相当である。」

第2 調査官解説の構成

 本件判決の調査官解説(以下、「本件解説」という)は、冒頭において、関係法令等として、じん肺法、労働者災害補償保険法(以下、「労災保険法」という)及び「改正じん肺法の施行について」(昭和53年4月28日付け基発第250号。以下、「本件通達」という)の内容を説明している。
 その上で、本件解説は、「第3」以下の「説明」において、「じん肺法23条と労災保険法との関係」「じん肺法23条と本件通達の関係」の各説明をし、本件訴訟の争点である「管理1に該当する旨のじん肺管理区分決定の取消しによって回復すべき法律上の利益」の説明に進んでいる。
 本件判決は、じん肺法に基づくじん肺管理区分と労災保険法の関係全体を見渡した上で、かつ本件通達に基づく事務運用も念頭において、争点に対する判断をしているが、その判断構造を理解するためには、まさに、じん肺法と労災保険法の関係を正しく把握しておくことが必要である。本件解説は、そのような観点から、冒頭において、関係各法令等の内容及び関係についての説明をしたものと考えられる。

第3 本件解説の「説明」の骨子とこれに対する批評

1 「問題の所在」について

 本件は、本件決定の取消訴訟の係属中に原告が死亡したという事案であり、相続人による訴訟承継の可否が問題となるのであるが、訴訟承継の可否については、一般に、処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を実体法上承継する者がいる場合にはその者が承継すると解されている(条解行政事件訴訟法[第4版]309頁)。本件解説もこれと同様の理解に基づいて争点に関する問題を設定している。
 これを本件事案についてみると、亡Aの相続人であるXらにおいて、亡Aが管理1に該当する旨の決定の取消しによって回復すべき法律上の利益を実体法上承継するかどうかが検討されるべき課題となる。

2 「じん肺法23条と労災保険法及び本件通達の関係について」について

(1) 本件判決は、じん肺法23条と労災保険法の関係について、「同法23条は、管理4と決定された者については、療養を要するものとしているところ、これは、労災保険給付の対象となる業務上の疾病として、『粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症』が定められ、療養補償給付等の対象とされていることに対応する規定であり、都道府県労働局長が上記のようなじん肺健康診断の結果を基礎とする専門医の判断に基づいて管理4と決定した者については、上記の業務上の疾病に当たるものとして労災保険給付が円滑かつ簡便に支給されるようにしたものと解される。そうすると、同条は、管理4に該当するじん肺にかかった労働者等が、その旨のじん肺管理区分決定を受けた場合に上記の業務上の疾病に当たるか否かについての実質的審査を再度経ることなく当該労災保険給付の支給を受けられることとしたものと解するのが相当である」と判示した(下線引用者)。
 ここでは、①じん肺法23条は、労災保険法においてじん肺症が療養補償給付の対象とされていることに対応する規定であること、②都道府県労働局長が管理4と決定した場合には、労災保険給付が円滑かつ簡便に支給される仕組みが採用されていることが指摘されている。

(2) この点に関し、本件解説は、本件判決が判示したじん肺法23条と労災保険法の関係を説明するため、(ア)じん肺法の立法経過と(イ)「じん肺管理区分における都道府県労働局長の判断」と「労災保険給付手続における業務起因性の判断」が実質的に同一であることを補足して説明している。
 確かに、「じん肺管理区分の決定」は、じん肺法に基づき都道府県労働局長が行うものであるのに対し、「労災保険給付」は労災保険法に基づき労働基準監督署長が行うものであって、処分の根拠も処分の主体も異なるものである。しかし、本件解説にもあるとおり、「じん肺管理区分は、粉じん作業(かっこ内省略)に従事する労働者等を対象として、専ら医学技術上の判断に属するじん肺の所見の有無及び進展の程度に応じて区分したものであり、都道府県労働局長において、エックス線写真等のじん肺健康診断の結果を基礎として、専門医(地方じん肺審査医)の判断に基づいて決定すべきものとされている」ことからすれば、じん肺管理区分における都道府県労働局長の判断と労災保険給付手続における業務起因性の判断は実質的に同一ということになる(言い換えると、前者と後者で異なる判断となる事態が生じることは考えにくい)。
 本件解説は、本件判決の①及び②(上述2(1))の背景となる実質的論拠を適切に説明しているといえよう。

(3) 本件判決は、上述2(1)の判示に続けて、「本件通達によれば、じん肺に係る労災保険給付に関する事務を行うに当たっては、管理4と決定された者に係るじん肺を業務上の疾病として取り扱うものとする一方、管理4以外の者からじん肺に係る労災保険給付の請求があった場合は、原則として、随時申請を行うべきことを指導し、当該申請によるじん肺管理区分の決定を待って、その結論に応じて所定の事務を行うこととされている。(中略)管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等が労災保険給付の請求をした場合には、当該業務上の疾病に当たるとは認められないとして当該労災保険給付の不支給処分を受けることが確実であるということができる」と判示した(下線引用者)。
 ここでは、管理4と決定された者については、実質的審査を経ることなく労災保険給付がされることの反面として、管理4以外の者(とりわけ管理1とされた者)については、随時申請の結果として管理4の判断が示されない限り、労災不支給決定がされることが確実であることが指摘されており、これが、相続人に訴訟承継を認める実質的な根拠となっている。

(4) 本件解説は、「管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等が当該労災保険給付の請求をした場合には、業務上の疾病に当たるとは認めない扱いになると考えられる」とした上で、その根拠について、本件通達の記載を「脚注」として引用している。
 本件解説は、脚注において、本件通達によれば、管理4以外の者からじん肺に係る労災保険給付の請求があった場合において、随時申請を行うことが不可能又は著しく困難な事情があるときは、じん肺の進行程度の判断に必要な資料等の収集を図り、地方じん肺審査医の意見に基づき、じん肺管理区分に相当するじん肺の進行度の判断を行って差し支えない旨を定めているが、本件通達の意義は、随時申請によらない場合であっても、じん肺管理区分決定と同様の方法によりじん肺の進行度の判断を行うとした点にあると説明する。そうすると、管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等がじん肺に係る労災保険給付の請求をした場合において、随時申請の方法によらない場合であっても、結局はじん肺管理区分決定と同様の方法で判断がされるのであるから、管理1の決定と異なる結論の判断がされることは考え難いということになる。
 さらに、本件解説は、じん肺法の解説も引用した上で、「じん肺管理区分上の判断」と、「労災保険給付における業務起因性の判断」の両者間において齟齬があるべきではないとの指摘を引用しているが、同一の判断資料に基づいて同様の判断枠組みで判断がされる以上、そのとおりと言うべきであろう。

3 「管理1に該当する旨のじん肺管理区分決定の取消しによって回復すべき法律上の利益について」について

(1) 本件判決は、じん肺法23条及び労災保険法の対応関係を前提として、「亡Aの相続人らが管理1に該当する旨のじん肺管理区分決定の取消しによって回復すべき法律上の利益を実体法上承継するとみることができるか否か」について、以下のとおり判示した。
 「都道府県労働局長から所定の手続を経て管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等は、これを不服として、当該決定の取消しを求める法律上の利益を有するところ、労災保険法11条1項所定の遺族は、死亡した労働者等が有していたじん肺に係る労災保険給付の請求権を承継的に取得するものと理解することができること(同項及び同条2項)を考慮すると、このような法律上の利益は、当該労働者等が死亡したとしても、当該労働者等のじん肺に係る未支給の労災保険給付を請求することができる上記遺族が存する限り、失われるものではないと解すべきである。このように解することは、本件のように、管理1に該当する旨の決定を受けた当該労働者等がその取消訴訟を提起した後に死亡した場合に、上記遺族に訴訟承継を認めないときは、当該遺族は当該労働者等のじん肺に係る労災保険給付を請求したとしても、管理1に該当する旨の決定が存する以上、当該労災保険給付の不支給処分を受けることが確実であり、改めてこれに対する取消訴訟を提起することを余儀なくされることに照らしても、合理性を有するということができる。」

(2) 本件解説は、上記判示部分について、「本件訴訟の実質的目的」というキーワードを用いて説明をしている。
 本件解説は、本件訴訟の実質的目的につき、「(本件)決定が取り消されなければ、管理4に該当する旨の決定を受けて『療養』の措置として円滑かつ簡便にじん肺に係る労災保険給付の支給を受けることができないし、別途当該労災保険給付の請求をしたとしてもその不支給処分を受けることが確実であることから、このような状態を回復するという点にある」とした上で、「管理4に該当する旨の決定を受けて円滑かつ簡便に労災保険給付の支給を受けるという手続を完遂することができなくなるため、このような手続的利益を享受する法律上の地位を回復すること」こそが本件訴訟の実質的目的であるとしている。本件判決には、本件取消訴訟の実質的目的という判示はなく、これは本件解説の独自の説明である。しかし、亡Aは、じん肺管理区分の変更そのものに関心があったのではなく、むしろ、管理4の決定を受けた上で労災保険給付を受けることを目的としていたのであり、また、本件判決が判示するじん肺法23条と労災保険法の関係を前提とすれば、本件訴訟の実質的目的は本件解説が述べるとおりに理解されよう。

(3) 本件解説は、管理4の決定を受けた場合、円滑かつ簡便に、実質的審査なく労災保険給付を受けることができる関係にあることを「手続的利益を享受することができる法律上の地位」と説明した。本件判決は「手続的利益を享受することができる法律上の地位」との判示はしていないので、このような表現もまた本件解説における独自の説明である。
 本件判決が判示するじん肺法23条と労災保険法の関係を前提とすれば、管理4に該当する旨の決定を受けた場合は、実質的審査なく労災保険給付を受けることができるため、当該決定を受けた者には手続的利益を享受することができる地位があるということはできよう。しかし、それが「法律上の地位」とまで言い得るのかには若干の疑問がある。
 確かに、じん肺法23条と労災保険法には一定の対応関係があること等からすれば、管理4に該当した者はほぼ自動的に労災給付としての療養を受けることができることになるが、それはあくまでもじん肺管理区分の決定の判断と労災給付請求の際の業務起因性の判断が相当程度重複することに起因するのであり、法律上、実質的審査なく労災保険給付を受けることができる旨を定めた規定があるわけではない。その意味において、労働者等に対し一定の地位が付与されたとまでは評価できないようにも思われる。
 本件解説もその点を意識してか、登録免許税の還付方法に関する最高裁平成17年4月14日判決の判示を引用している。当該判決は、登録免許税法32条2項が、登記等を受けた者に対し、簡易迅速に還付を受けることができる手続を利用することができる地位を保障しているとし、通知請求による還付の手続と国税通則法56条に基づく請求の手続の併存を認めた。当該判決においては、登記機関に対する通知という方法が、簡易迅速に還付を受けることができる手続を利用する地位を保障しているとし、当該地位が否定されたことを理由として通知拒否の処分性を肯定している。その意味では、当該判決は簡易迅速に還付を受けることができる手続を利用する地位を「法律上の地位」として位置付けたものと理解できる。
 このような理解とパラレルに考えた場合、最高裁は、本件判決における「円滑かつ簡便に労災保険給付を受けることができるという手続的利益」という、法律に明示の根拠を持つ利益ではない利益についても、少なくとも、処分性を判断する場面や訴訟承継を判断する場面においてはこれを広く「法律上の利益」に含まれるものと解し、そういった利益を享受する地位を「法律上の地位」と位置付けたものと解することができる。

(4) 最後に、本件解説は本件判決の意義として、「じん肺管理区分制度と労災保険給付制度との間で構築された仕組み全体を視野に入れて、じん肺管理区分決定の取消しによって回復すべき法律上の利益が実体法上承継し得るものであるかの判断に当たり、国民が救済を求めるみちを拡大する方向で柔軟な考え方を採ったものといえよう」と評価した。このような柔軟な考え方の基礎となったのは、「管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等が労災保険給付の請求をした場合には、当該業務上の疾病に当たるとは認められないとして当該労災保険給付の不支給決定を受けることが確実である」との事情の存在である。
 仮に、本件訴訟において訴訟承継を認めなければ、Xらは管理1を前提に労災保険給付の請求をせざるを得ないが、そのような請求をしたところで、管理1の決定がある以上、不支給決定を受けることは確実である。Xらとしては、不支給決定に対する審査請求又は取消訴訟において、管理4に該当することを主張することを余儀なくされるが、それはXらに対し不要な手続的負担を課すだけのことである。むしろ、労災保険給付の不支給決定がされることが確実に見込まれるのであれば、紛争解決を先の処分に対する審査請求又は訴訟に先延ばしするのではなく、現在係属している訴訟手続の中で審理し判断することが紛争の早期解決に資することは明らかであろう。
 「不支給決定を受けることが確実である」との判示は、最高裁平成17年7月15日判決における「相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらす」との判示を想起させる。本件解説も、「脚注」の中で、本件判決は、最高裁平成17年7月15日判決の前提とされた基本的な観点と軌を一にするものといえるようにも思われる、と評している。事案の違いはあれども、最高裁は、どの時点で紛争が解決されることが当該紛争解決にとって最も望ましいといえるか(紛争解決のタイミング)を模索し続けているように思われる。
 「処分性」の有無を判断する際、法律の仕組み全体を視野に入れて検討する方法(いわゆる「仕組み解釈」)は近時一般的な方法として定着しているが、本件判決では、訴訟承継という場面においても、法律又は制度の仕組みという観点からの検討を加えて、原審の判断とは逆に、訴訟承継を認める判断をした。
 紛争の解決には、紛争の実態に照らし解決すべき適切なタイミングがある。最高裁は、本件判示を通じてそのようなメッセージを発したものとも理解できよう。



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