本文へスキップ

最高裁判例 調査官解説批評review


固定資産評価委員会に審査の申出をした者が当該申出に対する同委員会の決定の取消訴訟において同委員会による審査の際に主張しなかった事由を主張することの許否
(令和元年7月16日第三小法廷判決 民集73巻3号211頁)
石川 美津子(東京弁護士会)

第1 事案の概要

1 はじめに

  本件は、固定資産税登録価格につき不服のある納税者が、固定資産評価審査委員会における審査の際、主張しなかった事実を、審査決定の取消訴訟において、新たに主張立証することも許されるとした最高裁判決である。
 

2 事案の概要

(1) 固定資産評価審査委員会に対する審査申出

  原告は東京都内において、鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付き9階建事務所(以下、”本件建物“という。)を所有しており、平成24年度の価格を688,028,700円と決定され、固定資産課税台帳に登録された。
 固定資産税の登録価格についての不服は、審査請求前置主義(裁決主義)が取られており、固定資産評価審査委員会(以下、「審査委員会」という)に対する審査の申出(地方税法432条1項)を行い、審査委員会の審査決定を受ける必要があり、審査決定に不服がある場合には、審査決定に対する取消訴訟のみが認められる(地方税法434条2項)。
 原告は、平成24年4月4日、審査委員会に対し、審査の申出を行い、審査手続きにおいては、登録価格の算定に当たり、経年減点補正率の適用の誤りがあること等の主張を行ったが、審査においては、本件建物の再建築費評点数の算出の基礎とされた主体構造部の鉄筋コンクリートの使用量に誤りがあるとの主張は行わなかった。
 平成27年2月24日、審査委員会は、申出につき、棄却の決定を行った。

(2) 審査決定に対する取消訴訟(第1審)(東京地判平29・3・17金商1581号34頁)

  原告は、審査決定の取消しを求めて、東京地裁に取消訴訟を提起した。
 原告は、第1審では、本件決定価格のうち、587,115,400円を超える部分につき取消を求め、複合構造家屋につき、構造別に経年減点補正率を適用する扱いが確立していたにもかかわらず、一棟単位で、RC補正率(鉄筋コンクリート造りの建物の経年減点補正率)適用したことについて、合理的理由のない差別的取扱いである等との主張を行ったが、東京地裁は、合理的理由のない差別的取扱いとまでは言えないとして、請求を棄却した。

(3)原審(東京高判平29・12・14 金商1581号29頁)

  原告はさらに控訴し、控訴審において、上述の主張に加え、本件建物の再建築費評点数の算出の基礎とされた主体構造部の鉄筋及びコンクリートの使用量に誤りがある旨の主張追加し、これに伴って、控訴審において請求の趣旨を変更して、547,278,800円を超える部分の取消の請求を行った。
 これに対し、原審は、取消訴訟において、審査委員会における審査の際に主張しなかった事由を主張することは、同事由について審査を経ておらず、正当な理由(行政事件訴訟法8条2項3号)がない以上、地方税法434条2項、行訴法8条1項ただし書きの趣旨に反し、許されないとした。そして、本件請求の趣旨変更に係る部分については、審査請求前置の要件を充足しないものとして却下し、残余の部分については、審査決定は適法であるとして、控訴を棄却した。

(4)上告審(本判決)

  原判決破棄。原審差し戻し。
 本判決は、固定資産税の登録価格についての不服については、地方税法の仕組みから、不服申立て前置主義が取られていることを述べ、審査手続きおいては、職権での資料収集等(433条3項、11項、平成26年改正前の行政不服審査法27条、29条、30条)が認められていること等からすると、審査委員会は、審査申出人の主張しない事由についても審査の対象とすることができると解すべきとした。
 続けて、「そうすると、審査の対象は、登録価格の適否を判断するのに必要な事項全般に及ぶというべきであり、審査決定の取消訴訟においては、同委員会による価格の認定の適否が問題となるのであって、当該価格の認定の違法性を基礎付ける具体的な主張は、単なる攻撃防御方法にすぎないから、したがって、審査申出人が審査の際に主張しなかった違法事由を同訴訟において主張することは、地方税法434条2項等の趣旨に反するものであるとはいえない。」とした。
 なお、取消しを求める額の上限額についての請求の趣旨の変更については、、「裁判所が当該固定資産の価格を認定して審査決定を取り消す場合における勝訴判決の上限を画する訴訟行為としての意味を持つにすぎ」ず、「本件請求の趣旨の変更は、本件主張追加に伴って上記上限を変更するにとどまるものであって、これが許されないとする解する事情は存しない」と判断した。

第2 本判決の意義と調査官解説

1  本判決の意義

  固定資産税の登録価格についての争訟は、裁決主義が取られているが(地方税法434条2項)、取消訴訟において、新たに違法性を基礎づける事実を主張する場合、裁決を経ていない(不服申立てを経ていない)との理由で、これを否定する学説や高裁判決が見られた。
 本判決は、審査委員会による審査の際に主張しなかった事由であっても、審査決定に対する取消訴訟において、新たに主張立証することが許されることを認めた初めての最高裁判決である。
 本判決自体は、比較的なシンプルな立論を取っており、審査委員会における審査手続きの趣旨と、審査手続きにおける職権証拠調べ・職権探知主義から、審査対象が登録価格の適否全般に及ぶ以上、違法性を基礎づける事実は攻撃防御方法にすぎず、審査の際に主張しなかった事実を取消訴訟において主張することは、地方税法434条2項等に反しないと述べるにとどまっている。調査官解説は、これを補う形で、不服審査請求および固定資産評価審査委員会における審査の手続き、取消訴訟における訴訟物、また、裁決が、準司法手続きを経た場合の例外と本件での評価委員会はこれに該当しないこと等に触れ、本判決の解説を行っている。

2 固定資産税の価格登録と不服申立て続き

(1)固定資産税の価格登録

  固定資産税に係る評価および価格登録の概要は以下のとおりある。
 課税標準となる固定資産の価格は、固定資産課税台帳に登録された価格(登録価格)である(地方税法349条)。
 課税対象となる不動産の評価は、固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第百158号;平成26年総務省告示217号による改正があったが、本件は改正前の基準が適用されている)に基づき行われる(地方税法403条1項)。
 家屋の評価は、木造家屋及び木造家屋以外の区分(以下、“非木造家屋”という。)の区分に従い、各個の家屋について評点数を付設し、評点1点当たりの価格を乗じて、家屋の評価を求めることとされている(第2章第1節一)。
 評点数は、評価の時点において新築するとした場合に必要となる建築費(再建築価格)を、屋根、外壁、天井等の部分別に合計し、再建築費評点数を算出し、具体的には、「木造家屋再建築費評点基準表」又は「非木造家屋再建築評点基準表」等を適用する。これらの基準表には、家屋の使用資材、部材、種類、数量等によって、点数が定められている。このうち、鉄骨・鉄筋及びコンクリートの使用量が明確な建物の主体構造部の再建築費評価点数については、単位当たりの各標準評点数にそれぞれの実際の使用量を乗じて算出することとされている(別表第12)。
 このようにして求めた再建築費評点数に、さらに、損耗の状況による減点補正等を行い、評価の対象となった評点数を算出する。(同二)
 評点1点当たりの価額は、1円に物価水準による補正率及び設計管理費等による補正率を乗じた価額とされる。

(2) 不服申立て(固定資産評価審査委員会)

  固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合には、3月以内に(ただし、平成26年行審法改正前は60日以内に)、固定資産評価審査委員会に審査の申出を行い(地方税法432条1項)、審査委員会は、申出を受けた日から30日以内に審査の決定を行う(地方税法433条1項)。
 審査決定に不服がある場合、納税者は、審査決定に対してのみ取消訴訟を提起すべきものとされており、この意味で、裁決主義もしくは不服申立前置主義が取られている(地方税法434条2項)。
 一方、固定資産税の課税のうち、価格以外についての事項(非課税、住宅用地の認定等)について争いがある場合は、市長村長に対し審査請求を行うことになるが(地方税法19条1項)、登録価格の不服を理由とすることはできないとされる(地方税法432条3項)。不服申立前置が義務付けられるが(地方税法19条の12)、特に裁決主義はとられていない。

3 調査官解説の内容

  本件における直接の論点は、審査申出において主張していなかった事実を、取消訴訟において、新たに主張立証することが許されるかということである。
 本判決と控訴審で判断が分かれたのは、裁決主義を規定した地方税法434条2項の趣旨のとらえ方、また、前審となる審査委員会での手続きを、対審構造を取る準司法手続きに近い手続きととらえるか、一般の行政不服審査と同様の手続きに近いととらえるかにつき、評価が分かれたためと思われる。

(1)審査請求対象と取消訴訟における訴訟物

ア 審査請求の対象

  調査官解説は、まず、地方税法434条2項が裁決主義を取っていること、そして、裁決主義が不服審査前置主義の一態様であることを述べる。そして、「一般に、審査請求手続において、審理の対象は、処分の当否を判断するのに必要な範囲全般に及ぶとされ、処分の具体的理由の当否とはされていない(南博方ほか「注釈行政不服審査法」176頁、最一小判昭和49・4・18・訟務月報20巻11号175頁)」こと、及び審査請求続きにおいては、職権主義が採用されるため、不服申立人の主張しない事由についても審査の対象とすることができ、「審査の対象が、処分の当否を判断するのに必要な範囲全般に及ぶ」のであれば、「審査請求手続きで審査されなかった違法事由についても、処分の同一性の範囲で審査を経たもの評価」することができるとしている。
 その上で、「取消訴訟の訴訟物は、取消事由ごとにあるのではなく、処分の違法性一般であるから、審査請求の対象となった処分と、取消訴訟の処分が同一である限り、訴訟において新たな事由を主張立証することは、審査請求前置主義もしくは裁決主義に反」しない(園部逸夫編「注解行政事件訴訟法」149頁、高橋滋ほか編「条解行政事件訴訟法第4版」272頁)ことを述べる。(解説218頁)
 調査官解説は、訴願法の時代の事案であるが、訴願で主張されていない事実であっても、訴訟で当事者が主張した事実は、判決の基礎とすることができるとした最一小判昭和29・10・14(民集8巻10号1858頁)をあげている。

イ 審査請求における職権主義
  以上のとおり、判決も調査官解説も、審査請求手続きにおける職権主義を根拠に、審査請求人が主張しない事実についても審査が及ぶことを述べているが、行政不服審査法(33条ないし35条)及び地方税法433条3項等が規定しているのは、職権証拠調べについてであり、職権探知について直接規定したものではない(cf. 人事訴訟法19条1項、20条)。しかしながら、審査手続きが対審構造を取っていないことや、通常、審査段階では、申立人は、法律知識を有する代理人を付けないで主張を行うことが多くみられること等から、職権探知主義が学説上も判例においても認められているところである。(ただし、職権探知は義務ではないと考えられている(小早川光郎=高橋滋編著『条解行政不服審査法』155頁[友岡史仁]))

(2) 固定資産評価審査委員会の審査

ア 固定資産評価委員会における手続き

  調査官解説は、以上の立論を、審査委員会の審査決定にあてはめ、地方税法上、審査委員会による審査については、特別の定めはなく、同法432条2項、433条11項は改正前の行政不服審査法を準用しており、また、準用される改正前行政不服審査法27条、29条、30条および地方税法433条3項が、職権証拠収集だけでなく、職権探知主義をも認めた趣旨であるとして、一般の審査請求同様、審査委員会における審査の対象についても、登録価格の適否を判断するのに必要な事項全般に及ぶことになるとしている(参照:固定資産税務研究会編「令和元年度版要説固定資産税」284頁)。(解説219頁)
 そして、審査決定の取消訴訟においては、価格の適否が問題となり、個々の違法性を基礎づける事実は、単なる攻撃防御方法のひとつに過ぎないことになり、処分が同一である以上、訴訟において新たな主張を行うことも許されることになるとしている。
 裁判例としては、神戸地判昭和63・3・23(判例地方自治51号17頁)をあげている。同事案では、家屋の価格についての審査申出を棄却した裁決取消訴訟につき、訴訟物は、審査委員会が認定した登録価格の違法性である以上、補正項目・補正係数等は間接事実に当たるものであり、時期に後れた攻撃防御方法とならない限り、主張は制限されないと判断された。

イ 実際上の利益衡量

  固定資産税は、賦課方式であり、納税者側に十分な資料がないことからすると、当初の段階で、納税者側にあらゆる事由を主張させることについては、無理がある。新たな主張を認めないとすると、「審査請求における職権探知は義務とまでは解されないものの、職権探知を怠った責任が、審査申出人ないし原告に転嫁される」(長谷川佳彦 ジュリストNo.1544号45頁)ことにもなるであろう。

(3) 裁決主義と本判決における立論

  ところで、本判決は「裁決主義」という言葉も「裁決前置主義」という言葉も用いておらず、直接には、地方税法434条2項等の趣旨に反しないということのみを述べるにとどめている。
 条文をみると、地方税法434条2項は、「・・納税者は同項(※地方税法432条1項)及び前項(※同法434条1項)の規定によることによつてのみ争うことができる」としており、この文言自体は、不服申立前置というより、裁決主義を規定していると思われる(cf. 地方自治法242条の2第1項、国税通則法115条本文等)。
 もちろん、調査官解説が冒頭で述べるとおり、裁決主義が不服申立前置主義の一態様であることは間違いない。ただ、不服申立前置の場合で、かつ、審査に不服がある場合、原処分主義を取るか、裁決主義を取るかは立法政策に委ねられところ、裁決主義は、原処分の違法性をも裁決取消訴訟において一本化して主張させるという制度設計に過ぎず、取消訴訟における新たな事実についての主張立証の可否の問題は、裁決主義から当然に結論が出るものではないと思われる。
 この点、控訴審判決は、裁決主義そのものではなく、「裁決前置」に反するとして、新たな主張立証を認めなかった。「裁決前置」という言葉の厳密な定義についてはともかく、控訴審のいう「裁決前置」が 違法性を基礎づける事実の評価の裁決を経たかどうかを問題とするのであれば、主張を認めない方向に近づくであろう。
 本判決および調査官解説が、「裁決主義」という言葉を使わず、審査請求の範囲と取消訴訟における訴訟物一般について述べ、新たな事実の主張立証が、地方税法の趣旨に反しないとしたのは、裁決主義・裁決前置主義・不服申立前置主義のいずれからも、新たな主張立証の可否が論理必然的には結論が導かれないことが根底にあったのではないかと思われた。

(4) 実質的証拠法則がある場合の例外

ア 行政審判と実質的証拠法則

  なお、本判決自体は、取消訴訟における主張制限と実質的証拠法則については何も述べていないが、調査官解説は、特許無効の抗告審判につき、抗告審判で審理判断されなかった公知事実との対比における特許無効原因については、審決取消訴訟において新たに主張することは許されないとした最大判昭和51・3・10(民集30巻2号79頁)(※旧特許法が適用される事案である)についても触れている。
 これは、控訴審判決が、実質的証拠法則という言葉は用いなかったものの、審査委員会における審査が、申出が文書によるとされていること(地方税法432条1項本文)、審査の手続等を審査委員会の規定で定めることができること(地方税法436条)、また、必要な資料の所持者に提出を求め、審査申出人が提出した証拠書類等を検討するとされていること等を指摘し、このような審査委員会の構造を考えると、新たな主張を許すことは、地方税法434条2項、行訴法8条1項ただし書きの趣旨に反すると述べたため、この見解に対する考えを明らかにしたものと考えられる。

イ 固定資産評価審査委員会との比較

  調査官解説は、処分の同一性が認められる限り、取消訴訟においても、新たな事実を主張立証可能としつつも、「いわゆる準司法手続が取られている行政審判が前置されている場合であって、行政委員会の認定した事実につき、それを立証する実質的な証拠があるときには裁判所を拘束するという実質的証拠法則を明文で定め」ている場合には、審判取消訴訟において、新たな事由を主張立証することは許されないとする。ただし、実質的証拠法則につき、明文の規定がない場合については、このような主張制限を否定されるとも述べている(前掲「注解行政事件訴訟法」150頁、前掲「条解行政事件訴訟法第4版」272〜273頁、最二小判昭和47・4・21・民集26巻3号567頁)(解説218頁)。
 しかしながら、以上を前提として、調査官解説は、地方税法の規定および評価委員会の構成から、審査決定の取消訴訟には、実質的証拠法則等を根拠とする主張制限は及ばないとする。
 前掲昭和51年最高裁判決事件の前審である特許審判は、旧特許法において、準司法手続きが取られており、審査委員会の審査手続きとは異なっており、また、旧特許法においては、専門知識を有する審判官による審判及び抗告審判の手続きを経由させ、抗告審判の取消訴訟を東京高等裁判所の専属管轄としている。
 一方、審査委員会は、このような構成は取られておらず、委員についても、特に、専門性は担保されていないこと、改正前の行審法の手続きが準用(地方税法423条2項、433条11項)されており、準司法手続きが取られていないことを指摘する。そして、地方税法上実質的証拠法則に係る規定も存在しないことから、審査決定に対する取消訴訟においても、新たな事実を主張することが許されるとしている。
 控訴審が指摘した点については、一般の審査請求手続きでも同様であり、手続きについても規程に委任するとしているにとどまり、民事訴訟法の規定を準用するともされていないことから、昭和51年最高裁判決の趣旨は及ばないとする。
 審査委員会における手続きについては、主張・立証につき、まずは、当事者がその不服の事項を申立て、これを基礎づける事実を主張立証する建前が取られていたとしても、対審構造に近い行政審判等とは大きく異なっており、調査官解説の指摘の方が妥当であると思われる。

(5) 取消訴訟における訴訟物と請求の趣旨の変更

  調査官解説は、請求の趣旨における価格の上限についても述べている。上述のとおり、取消訴訟の訴訟物は審査決定の違法性一般であるとすると、請求の趣旨に付した一定の価格を超える部分という限定は、訴訟物の限定ではなく、「裁判所が審査決定を取り消す場合における勝訴判決の上限を画する訴訟行為としての意味」しかないとし、請求の趣旨の変更は、主張追加に伴う上限の変更に過ぎないので、許されるとしている。この考え方は、最一小判昭和62・5・28(訟月34巻1号156頁)や、最二小判平成17・7・11(民集59巻6号1197頁)における見解(増田稔・最高裁判所判例解説民事篇平成17年度(下)353頁以下)に基づいているものと考えられる。(解説221頁)

第3  その他の論点および射程距離

1 その他の論点

(1) 制限説と無制限説

  本件では直接争点とされなかったが、原告は、控訴審において、本件建物の再建築費評点数の算出の基礎とされた主体構造部の鉄筋およびコンクリート使用量に誤りがあることを主張した。この主張は、本件で直接問題となる平成24年の基準年度だけでなく、建築当初以降のすべての評価の誤りを主張するものである。このような、建築当初の再建築費評点数の過誤を後続の基準年度で争うことができるかについても争いがあり、この点については、主張を認める無制限説と、例外的事情のある場合にのみ主張が許されるとする例外説がある。調査官解説はこの点についても触れ(解説225頁・注13)、仮に制限説に立ったとしても、本件では、「鉄筋およびコンクリートの使用量の誤りは、これが認められれば、評価額に数千万円の差異が生ずる」ことになるため、主張が認められる可能性が高くなり、どちらの説によるかにより、結論は左右されないとしている。

(2) 時機に後れた攻撃防御方法

  また、調査官解説は、時機に後れた攻撃防御方法(民事訴訟法157条)についても触れている(解説225頁・注12)。違法性を基礎づける新たな事由を取消訴訟で主張する場合、特に、控訴審段階になって初めて主張する場合、時機に後れた攻撃防御方法として却下される可能性もある(民事訴訟法157条1項)。
 本件では、原告側は、控訴審の第1回口頭弁論期日において主張を追加したこと、また、証拠については、すでに書証等が提出済みであったことから、訴訟の著しい遅延にはならないと判断されたようである。
 したがって、主張立証の仕方や、特に、新たに大量の書証等を提出するような場合には、主張の追加が認められない可能性もあるであろう。

2 本件調査官解説の射程距離

(1) 総額主義と理由の差替え

  本判決は、原告側の主張追加に関するものであることから、被告行政庁側の理由の差替えについては論じていない。取消訴訟における訴訟物が違法性一般であり、判例は、課税処分の取消訴訟の訴訟物は、総額の適否であるとする総額主義に立脚し、原則として、課税庁側の理由の差替えも認めてきた(最三小判昭和56年7月14日・民集35巻5号901頁)。
 理由の差替えをどこまで認めるかについては、また、別の論点となるが、このような判例の流れと対比しても、本判決の結論の妥当性が認められる。

(2) 改正後の行政不服審査法

  行政不服審査法は、平成26年に改正された。平成26年改正により、審理員制度の導入など、やや対審構造に近付いた制度になったと見ることも可能であるが、改正前行政不服審査法同様、鑑定(27条)、物件の提出要求、審尋(30条)等についても、申立てだけではなく職権によることも認められており、その他の手続きを見ても、同改正により、準司法手続きにより近い対審構造に変化したと考えることは難しいであろう。(小早川光郎=高橋滋編著『条解行政不服審査法』156頁[友岡史仁])
 そうだとすると、本件が、改正後の行政不服審査法が適用される事案であったとしても、結論は異ならなかったと思われる。

3 最後に

  筆者が確認したところによると、本件は、現時点(令和3年2月26日)で、まだ東京高等裁判所において審理中とのことである。
 固定資産税の課税については、課税における過誤が散見され、また、その金額の差額が大きくなることから、本判決の結論については賛成であり、争いのあった点を明確にした点でも意義のある判決である。また、判決が十分に述べていないところを、理論的に補充している調査官解説の内容についても格別異議はないが、調査官解説が、地方税法の趣旨に基づいて審査委員会の手続きを丁寧に分析していることから、本件判決の射程距離を他の不服申立手続き一般に拡充することについては注意が必要であると思われた。



contents

ぎょうべんネット 事務局

〒150-00222
東京都渋谷区恵比寿南3-3-12
アージョTビル5階
水野泰孝法律事務所内

E-mail consult@gyouben.net