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最高裁判例 調査官解説批評review


差止めの訴えの訴訟要件である「行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があること」を満たさない場合における,将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟の適否(自衛官の安保関連法違憲訴訟判決)
(令和元年7月22日最高裁第一小法廷判決 民集73巻3号245頁)
八木 正雄(大阪弁護士会)

1 中島崇調査官による解説である。

 判決言渡時及び本解説執筆時は最高裁事務総局行政局第一課長で(平成27年4月1日から31年3月31日まで調査官),その後,東京高裁民事第17部へ異動している。

2 事案の概要

(1)当事者

 X(一審原告,控訴審被控訴人,上告審被上告人)は,平成5年4月に陸上自衛隊に入隊し,平成27年8月1日以降は茨城県霞ヶ浦にある関東補給処総務部総務課に所属していた現職の陸上自衛官である。

(2)自衛隊法の改正

 平成27年に「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」(平成27年法律第76号,以下「平和安全法制整備法」という。)が成立したが,これによって自衛隊法76条1項が改正され,内閣総理大臣が自衛隊に防衛出動命令を発することができる場合が追加された。具体的には,従前からあった「我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態」(改正後の同条項1号。以下「武力攻撃事態」という。)に加え,新たに「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」(改正後の同条項2号。以下「存立危機事態」という。)においても防衛出動命令を発することができることとされた(以下,存立危機事態の場合に発される防衛出動命令を「本件防衛出動命令」という。)。  

(3)自衛隊法における命令違反に対する懲戒処分の規定及び罰則

 なお,自衛隊法においては,自衛隊員は上官の職務上の命令に従わなければならない旨が定められており(56条,57条),職務上の義務に違反し又は職務を怠った隊員に対しては懲戒処分が定められている(46条1項)。また,同法76条1項の規定による防衛出動命令を受けた者で,職務の場所につくように命ぜられた日から正当な理由がなくて3日を過ぎてなお職務の場所につかない者,上官の職務上の命令に反抗し又はこれに服従しない者等には罰則があり,7年以下の懲役又は禁錮に処せられる旨の規定がある(123条1項)。

 これら懲戒処分の規定及び罰則は平成27年の同法改正前と同様であるが,過去に内閣総理大臣が防衛出動命令を発した例は,武力攻撃事態を理由とする場合も存立危機事態を理由とする場合も本件訴え提起までに1件もないため,同命令に違反したとして懲戒処分を受けたり罰則を科せられたりした者もいないとのことである。

(4)Xによる提訴

 Xは,上記の法改正により新設された同法76条1項2号の存立危機事態の規定は憲法9条に違反するなどと主張して,Y(国。一審被告,控訴審被控訴人,上告審上告人)に対し,Xが本件防衛出動命令に服従する義務がないことの確認を求めて出訴した(以下「本件訴え」という。一審は本人訴訟であった)。Xは,本件訴えにおける確認の利益について,同命令が発動されると自身の生命等に重大な損害が生じるおそれがあること,同命令に従わなかった場合には同法により刑罰が科されるおそれがあることを理由として主張した。

(5)第一審判決(東京地判平成29年3月23日,民集73巻3号267頁参照。労働判例ジャーナル70号47頁)

 一審判決は,確認の訴えは現に原告の有する権利又は法的地位に危険や不安が存在し,これを解消するために確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限って認められるとした上,存立危機事態が現に発生し,又は近い将来発生する明白なおそれがあるとは認められないこと,Xも入隊後現在までの間に直接戦闘を行うことを主たる任務とする部隊に所属したことがないことから,Xに本件防衛出動命令が発せられその任務に就く可能性も認められないので,本件訴えは確認の利益を欠き不適法であるとした(訴え却下)。

 なお,一審判決は,本件訴えが無名抗告訴訟(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条1項に定める抗告訴訟のうち,同条2項以下において個別の訴訟類型として法定されていないもの)にあたるのか,あるいは実質的当事者訴訟(同法4条後段)にあたるのかを判示していない(Yは,実質的当事者訴訟として答弁している)。また,Xが主張した自衛隊法76条1項2号の違憲性については「その余の争点について判断するまでもなく」として言及していない。

(6)控訴審判決(東京高判平成30年1月31日,民集73巻3号272頁参照。裁判所ウェブサイト)

 これに対しXは控訴した上,控訴審において,本件訴えはXが本件防衛出動命令に従わなかった場合に受けることとなる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟であると釈明した(控訴審以降はXに代理人の弁護士が就いた)。

 控訴審判決は,本件防衛出動命令及びこれに基づいてなされる職務命令はいずれも抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらないとしつつ,本件防衛出動命令が発された場合にそれに基づいてなされる職務上の命令に従わないと個々の自衛官は懲戒処分を受けるので,この懲戒処分は抗告訴訟の対象になるとした。

 その上で,本件訴えはそのような職務命令に服従しないことを理由としてなされる懲戒処分の予防を目的として,Xが職務命令に服従する義務がないことの確認を求める無名抗告訴訟であると解し,それが適法と認められるには,差止めの訴えに関する行訴法37条の4第1項及び最判平成24年2月9日(民集66巻2号183頁,いわゆる日の丸・君が代訴訟判決)を参照し,@職務命令に服従しないことやその不服従を理由とする懲戒処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあること(重大な損害の要件)及びAその損害を避けるため他に適当な方法がないこと(補充性の要件)の2つの要件を満たすことが必要であるところ,本件ではこれら要件をいずれも満たすので適法な訴えであるとし,一審判決を破棄し差し戻した。これに対しYが上告受理申立てをした。

(7)最高裁判決(本判決)の概要

 最高裁(第一小法廷)は,自衛隊法76条1項に定める防衛出動命令は組織としての自衛隊に対する命令であって個々の自衛官に対して発せられるものではなく,これにより防衛出動をすることとなった部隊又は機関における職務上の監督責任者がその部隊等に所属する個々の自衛官に対してその防衛出動にかかる具体的な職務上の命令(以下「本件職務命令」という。)をすることとなるとした上,「本件訴えは,被上告人が本件職務命令に服従する義務がないことの確認を求めるものと解される」とした。

 その上で,本件訴えは,本件職務命令に服従しないことを理由とする懲戒処分を予防することを目的として,本件職務命令に基づく公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟であると解されるが,このような無名抗告訴訟は懲戒処分に係る差止めの訴えと目的が同じであり,請求が認容されたときには行政庁が懲戒処分をすることが許されなくなるという点でも差止めの訴えと異ならないから,確認の訴えの形式で差止めの訴えにかかる本案要件の該当性(行訴法37条の4第5項,処分の覊束性)を審理の対象とするものといえるとした。そして,差止めの訴えでは訴訟要件として処分の蓋然性(同法3条7項)が定められているところ,同法が差止めの訴えよりも緩やかな訴訟要件で無名抗告訴訟を許容したとは解されないから,無名抗告訴訟が差止めの訴えの訴訟要件である蓋然性の要件を満たさない場合には不適法であるとして,控訴審判決を破棄し差し戻した(5名の裁判官全員の一致)。

(8)その後の経過

 差戻し後の控訴審においては,Xが本件職務命令に服従しないことを理由として懲戒処分を受ける蓋然性があるかにつき審理されたが,判決(東京高判令和2年2月13日,裁判所ウェブサイト)は,存立危機事態が現に生じ,又は近い将来発生する明白なおそれはなく,Xが所属する部隊に本件職務命令が発令される具体的,現実的可能性もないからXが本件職務命令を受ける具体的,現実的可能性もなく,現時点においてXが本件職務命令に服従しないことを理由として懲戒処分を受ける蓋然性は認められないので,本件訴えは無名抗告訴訟としては不適法であるとした。

 なお,Xは,この差戻し後の控訴審において,仮に本件訴えが無名抗告訴訟としての要件を欠く場合であっても,Xが防衛出動命令に基づく本件職務命令に服従しなかった場合に受けることとなる行政処分以外の不利益を防ぐことを目的とする実質的当事者訴訟として審理されるべきである旨を主張したが,同判決は,確認の訴えは現に提訴者の有する権利又は法的地位に危険や不安が存在し,これらを解消するために確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限って認められるところ,Xが主張する危険や不安は具体的・現実的可能性がないので確認の利益を欠いており,実質的当事者訴訟としても不適法であるとした。

 Xはさらに上告及び上告受理申立てをしたが,最高裁(第二小法廷)は令和2年12月9日,上告を棄却し上告受理申立も不受理として本件訴えは終結している。

3 調査官解説の構成

 本件訴えの主な争点は,@将来の不利益処分の予防を目的としてその処分の前提となる公的義務が存在しないことの確認を求める訴えが無名抗告訴訟として許容されるか否か及びA存立危機事態の場合に防衛出動命令を認めた自衛隊法76条1項2号が憲法に違反しないか否かの2点であった。しかし,これらのうち,裁判所で判断されたのは審級を通じてもっぱら@であり,調査官解説(以下「本解説」という。)も@についてのみなされている。

(1)無名抗告訴訟か,実質的当事者訴訟か

 本件のXが判決により本件職務命令に従う義務のないことが確認されれば,Xに対しては同命令違反を理由とする懲戒処分をすることができなくなるが,本解説は,このように公法上の法律関係の存否の確認を求める訴えは,@行訴法3条1項にいう抗告訴訟の一種として無名抗告訴訟にあたるのか,あるいはA同法4条後段の実質的当事者訴訟にあたるのかが問題となるとした上,前掲最判平成24年2月9日を引き,その訴えが処分による不利益の予防を目的とするものである場合は@,処分以外の不利益の予防を目的とするものである場合はAであるとするのが判例の立場であるとしている。そして,本件のXは,差戻し前の控訴審において,本件訴えはXが本件防衛出動命令に従わなかった場合に受けることとなる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟であると釈明したことから,最高裁もそのように判断したとしている。

(2)予防的無名抗告訴訟の訴訟要件

ア 判例

 本解説は,このように将来の不利益処分の予防を目的として,その処分の前提となる公的な義務のないことの確認を求める無名抗告訴訟を「予防的無名抗告訴訟」と称した上,そのような訴訟の訴訟要件をどのように考えるべきかについて過去の判例を検討している。

 最高裁の過去の判例として検討されているのは,行訴法の平成16年改正前のものとしては,@最判昭和47年11月30日(民集26巻9号1746頁,いわゆる長野勤評事件判決)及びA最判平成元年7月4日(集民157号361頁,いわゆる横川川事件判決)であり,同改正後のものとしては,B前掲最判平成24年2月9日である。

 これら判例のうち,@では,予防的無名抗告訴訟の要件として,処分を受けてから事後的に訴訟の中で義務の存否を争ったのでは回復しがたい重大な損害を被るおそれがあるなど,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情があることが挙げられており,Aでも概ねそれが踏襲されている。

 他方,Bでは,予防的無名抗告訴訟は,職務命令に違反したことを理由とする将来の懲戒処分の差止めの訴えを,職務命令に基づく公的義務の存否にかかる確認の訴えの形式に引き直したものということができるとした上,差止めの訴えは平成16年改正により法定され,その訴訟要件として「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」ではないこと(行訴法37条の4第1項ただし書き。補充性の要件)が定められたのだから,予防的無名抗告訴訟でも補充性の要件が必要になるとした(ただし,この判決は,予防的無名抗告訴訟のそれ以外の要件については明示していない)。

 そして,本解説は,上記@やAの裁判例はまだ差止めの訴えが法定されていなかった平成16年改正前のものであるから,同改正後においてはこれら裁判例の定式を用いて予防的無名抗告訴訟の適法性を判断するのは相当でなく,予防的無名抗告訴訟は差止めの訴えの訴訟要件との関係において検討すべきであるとしている。

 なお,本解説では,下級審の過去の裁判例についても検討されているが,その中では,予防的無名抗告訴訟の訴訟要件として,平成16年改正前はいわゆる無名抗告訴訟の3要件(明白性の要件,緊急性の要件及び補充性の要件)を満たすことが必要とするのが一般的であったものの,同改正後は考え方が確立されているとは言い難い状況であったとしている。

イ 学説

 他方,学説では,処分の予防を目的とするものか否かにかかわらず,処分の前提となる法律関係の存否の確認を求める訴えは無名抗告訴訟ではなく実質的当事者訴訟であるとする見解が有力とされているとした上,実質的当事者訴訟であることを前提として,その訴訟要件としては,民事事件の確認訴訟と同様に確認の訴えの利益があれば足りるとする見解と,行訴法の定める差止めの訴えの訴訟要件との調整が必要とする見解とがあるとしている。

ウ 本判決の判断

 本判決は,予防的無名抗告訴訟について,差止めの訴えで訴訟要件の1つとされている蓋然性の要件(行訴法3条7項「一定の処分又は裁決・・・がされようとしている」こと)を満たさない場合には不適法である旨を判示した。その理由として本判決が挙げているのは,予防的無名抗告訴訟は懲戒処分の差止めの訴えと目的や認容判決の効果が同じであること,差止めの訴えでは本案要件として行政庁が懲戒処分をすべきでないことが処分の根拠規定から明らかであること等(処分の覊束性。同法37条の4第5項)が定められているので,確認の訴えの形式で差止めの訴えの本案要件に該当するか否かが審理されるとすれば,差止めの訴えよりも緩やかな訴訟要件により予防的無名抗告訴訟が許容されることになり,同法がこれを認めたとは解されないということである。

 このように,行訴法改正によって法定された差止めの訴えの訴訟要件との均衡が挙げられたことの理由として,本解説は,@処分の差止めの訴えは処分がなされる前に提起されるものであるから,その処分がなされようとしていることについての選択の違法性を具体的な事実に照らして争うことは難しく,多くの場合は処分の要件に該当する事実があるかということが審理の中心になると考えられること,A差止めの訴えにおいて処分要件該当性の一部のみを争う場合であっても訴訟要件は異ならないので,確認の訴えの訴訟要件を差止めの訴えよりも緩やかにすることを合理的に根拠づけることは困難であること及びB本判決の立場によれば,確認の訴えが処分以外の不利益を防ぐことを目的とするものである場合には,その確認の訴えが将来予想される処分を防ぐ機能を併せ持つ場合であっても実質的当事者訴訟として確認の訴えを提起することができるので,救済の実効性に欠けることはないことを挙げている。そして,本解説は,このような見解に立ち,差止めの訴えを提起することが可能である場合には,予防的無名抗告訴訟を適法に提起することができる余地はおよそないとしている。

4 本解説に対する評釈

(1)前掲最判平成24年2月9日との関係

 本判決は前掲最判平成24年2月9日を引用してはいないが,同判決が予防的無名抗告訴訟(校長の職務命令に基づく義務の不存在の確認を求める訴え)につき,平成16年の行訴法改正により差止めの訴えが法定されたこと及び差止めの訴えでは補充性の要件が必要とされていることを挙げ,予防的無名抗告訴訟でも補充性の要件が必要になる旨判示していたことからすれば,本判決がそれを下敷きとして差止めの訴えの訴訟要件との均衡を求めた結論になることは,ある程度想像がつくといえる。また,上記のように,本解説は,平成16年の行訴法改正後において予防的無名抗告訴訟の適法性を判断するには差止めの訴えの訴訟要件との関係において検討すべきであるとしており,このことが本件訴えについても前掲最判平成24年2月9日の判示に沿った結論を導くことになったと思われる。

 しかし,前掲最判平成24年2月9日のように予防的無名抗告訴訟と実質的当事者訴訟とを区別することに対しては批判的な見解もある(例えば,櫻井敬子・橋本博之「行政法(第6版)」2019年,340頁は「行政事件訴訟法が訴訟類型を多元化したのは,国民にとって司法的救済のツールを増やすという趣旨であり,国民に訴訟類型選択のリスクを増大させるような運用は,この立法趣旨にもとる」としており,山本隆司・論究ジュリスト3号127頁も「公的義務を訴訟物または訴訟要件のレベルで,一部分は抗告訴訟の対象になるものと分断し,実効的な権利保護および紛争解決の観点からデメリットを発生させることは,行訴法の趣旨に反するのみならず,理論上も不当ではないか」としている)。こうした点からすると,原告が自己に対してどのような処分がされる可能性があるのかを予測した上,その処分を避ける法的構成を考えた上で予防的無名抗告訴訟を選択して提訴したにもかかわらず,その道を相当狭める方向で解釈することには疑問が残る。行訴法の平成16年改正で差止めの訴えが法定されたのは,従前の判例法理により議論されてきたところを整理して法文化し明確化するという趣旨であって,従前よりも訴訟要件を厳格にする趣旨ではなかったはずである。

(2)実質的当事者訴訟としての確認の訴えとの関係

 また,本件においては,Xは本件訴えの訴訟類型につき,本件防衛出動命令に従わなかった場合に受けることとなる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟であると釈明したために,その後の審理も本件訴えは予防的無名抗告訴訟であることを前提に進められた。しかし,もし仮に,Xが本件職務命令に従わなければ刑事罰を科せられるおそれもあるのでそれを防ぐことを目的とした訴訟であると釈明していれば,本件訴えは実質的当事者訴訟として進められ,前掲最判平成24年2月9日の延長線上にはない判決となった可能性もある(このことにつき指摘するものとして,宇賀克也「行政法概説U 行政救済法(第7版)」2021年,399頁)。この点につき,本解説も「Xとしては,本件訴えを処分以外の不利益の予防を目的とする実質的当事者訴訟と構成することも可能であったように思われる」としている。

 しかし,仮に実質的当事者訴訟として考えるとしても,確認の利益の有無について厳格に解されれば結局不適法な訴えであるとされかねないが,本解説がこの点について全く言及していないのは疑問である。上記のように,予防的無名抗告訴訟につきかなり厳しい訴訟要件の下でしか認められないというのであれば,代替手段となる実質的当事者訴訟の可能性についても検討すべきである。

(3)差止めの訴えの他の訴訟要件との関係

 本件訴えの差戻し前の控訴審判決では,差止めの訴えにおける重大な損害の要件を検討するにつき,存立危機事態における防衛出動命令に基づく本件職務命令を受けながら,自衛官がこれに服従しない場合には極めて厳しい社会的非難,懲戒処分,更には重大な刑事罰を受けることになること,その懲戒処分も免職を含む重大なものとなり刑事罰も同様に重いものになると考えられるから,Xが被ることになる損害は,懲戒処分がされた後に取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して執行停止の決定を受けることなどはもとより,当該処分の差止めを命ずる判決を受けることによっても容易に救済を受けられないとして,いずれも積極に解していた(その判断を評価するものとして,木光・ジュリスト1544号47頁)。

 これに比べると,最高裁判決は,蓋然性の要件につき指摘するにとどまっており,重大な損害の要件については何も判示していない。そして,本解説も,上記のような差戻し前の控訴審判決の「見解の当否について本判決が判断を示したものではない」として言及を避ける形となっており,差戻し前の控訴審判決が踏み込んで説得力のある判示をしていたことを見過ごしているのは物足りないと言わざるを得ない。

(4)自衛隊法の合憲性判断の回避

 Xが本件訴えを提起したことの実質的な目的は,存立危機事態の場合に自衛官に対して罰則付きで出動命令を定めた自衛官法の合憲性について司法判断を求めることにあったと思われる(この点につき指摘するものとして,木光・ジュリスト1544号47頁。さらに,奥野恒久・法学セミナー増刊新・判例解説Watch23号30頁は,自衛隊法改正により追加された存立危機事態の場合における防衛出動命令の規定は憲法9条2項に反しており,また入隊時に存立危機事態における防衛出動命令に従うことに同意していなかったXをこれに服従させることは憲法18条に反するとしている)。

 しかし,本件訴えに対する各判決は,本判決だけでなく審級を通じて訴訟要件の適否というもっぱら技術的な事項に絞って論じており,憲法判断については言わば回避した形となっているので,Xにとっては肩透かしを食らった思いであろう。このことについて本解説が全く言及していないことには疑問が残る。

※ 参考文献

1 控訴審判決(差戻し前)に関するもの
(1)法学セミナー増刊新・判例解説Watch23号27頁(奥野恒久)

2 本判決に関するもの
(2)判例時報2452号18頁
(3)判例タイムズ1472号45頁
(4)ジュリスト1544号46頁(木光)
(5)ジュリスト1547号85頁(中島崇)
(6)法学セミナー増刊新・判例解説Watch26号37頁(湊二郎)
(7)法学セミナー782号125頁(児玉弘)
(8)宇賀克也「行政法概説U 行政救済法(第7版)」2021年,399頁
(9)石崎誠也「『平和安全法制整備法』による命令服従義務不存在確認訴訟上告審における意見書」高岡法学38号245頁

以 上





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