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最高裁判例 調査官解説批評review


免職と退職手当支給制限判決の調査官解説について
(令和5年6月27日第三小法廷判決 民集77巻5号1049頁)
斎 藤   浩(大阪弁護士会)

1 佐藤政達調査官の解説である。

  同調査官は、学生時代、法学部成績優秀者として,平成16年度第2回東京大学総長賞を受賞している(弁護士山中理司のブログ参照)。本判決の翌春、東京地裁44民事部の右陪席になっている。

2 典型的いわゆる調査官解説でありかつそれを超えた内容でもある

  この点、私が、すでに書いているあべ松春子調査官がおこなった厚木基地航空機飛行差止訴訟判決(平成28年12月8日第一小法廷判決民集70巻8号1833頁)についての解説と、好対照をなすと言えようか。
 典型的とは、内容が調査官個人の考えであるにもかかわらず、全てがその裁判体の判断内容を正しく解説したものであると受け取られることがあるように書かれている(脚注1)、という意味である。
 それを超えた内容とは、この調査官は自説を多く開陳しているという意味である。

3 多数意見について

  多数意見は、宮城県の「職員の退職手当に関する条例」の規定(具体的には12条1項1号)により公立学校教員を懲戒免職処分により退職した者に対する、県教育委員会の、一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分が、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえないとした。
 調査官解説は、この判断枠組みは、退職手当支給制限処分としては初めてだが、これは同種事案に対する下級審裁判例が大半採用してきたものだと述べる。
 また判決が、「本件規定は、退職手当支給制限処分に係る判断に当たり勘案すべき事情を列挙するのみであり、そのうち公務に対する信頼に及ぼす影響の程度等、公務員に固有の事情を他の事情に比して重視すべきでないとする趣旨を含むものとは解されない。また、本件規定の内容に加え、本件規定と趣旨を同じくするものと解される国家公務員退職手当法(令和元年法律第37号による改正前のもの)12条1項1号等の規定の内容及びその立法経緯を踏まえても、本件規定からは、一般の退職手当等の全部を支給しないこととする場合を含め、退職手当支給制限処分をする場合を例外的なものに限定する趣旨を読み取ることはできない」とする部分につき、調査官は、「当然のことといってもよいように思われる」として、異なる解釈を行う下級審や学説を一刀両断している。

4 「本件へのあてはめ」、「補足」として自説を展開し、原審判決や宇賀反対意見を批判する

(1)社会観念審査をおこなった多数意見は、裁量を広汎に認めているのではなく、非違行為の対応という個別具体的事情の当てはめにすぎないと、調査官解説として多数意見を擁護している。しかし、その論理は荒く、問いを持って問いに答えているにすぎない。

(2)宇賀反対意見が、警察官の事例との均衡をあげる点について、一つの事例だとか、比較の具体的状況が不明などとして疑問とする。瑣末な弱々しい言明である。

(3)高裁判決(仙台高判令5.10.25裁判所ウエブ)が、一部取消しを認め、それを支持する研究者の評釈について、私見を展開する。裁判所が判断代置をするような思考は疑問だとし、高裁が一回結審したことを批判する。
 しかし、判断代置が悪いかのように述べるのは、伊方上告審判決(最判平4.10.29裁判所ウエブ)の高橋利文調査官の調査官解説以来の慣習的悪弊である。調査官も経験した園部逸夫元最高裁判事が、行政訴訟を定義して、「裁判所の公益判断を行政庁のそれと置きかえることまで要求される」と述べていることの重みを噛み締めるべきであろう(脚注2)
 一回結審について、調査官が批判することは異例である。裁判所ホームページで明らかにされている、高裁の平均口頭弁論期日回数は1.5日であり、78%が1回結審である。
 井上繁規「民事控訴審の判決と審理第2版」(第一法規、2013年)352頁は「控訴裁判所が、訴訟記録を検討した結果、第1審で審理が十分に行われており、控訴審で更に主張立証を尽くす必要はないものの、第1審の結論は誤っているので、第1審判決を取消し又は変更すべきであると判断するときは、第1回口頭弁論期日において口頭弁論を終結するのが相当であると考えられる」としている。
 私は、弁護士として、この裁判所の風潮・方針にいつも異議を唱える立場であるが、それは最高裁事務総局の方針なのであるから、その中心にいる調査官が、当該高裁判決を批判するために、その方針に沿った審理をした高裁を批判するために一回結審問題を持ち出すのは、天に唾する感じがする。
 なお、高裁判決の小林久起裁判長は、定年を1年後に控えて、令和6年4月、死因性不整脈で死去した。実に残念なことで、心から冥福をお祈りする。
 本件最高裁判決の評釈としては、この調査官解説が引用しているもののほか、令和5年度「重要判例解説」(有斐閣)掲載の近藤卓也准教授のものがある。



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