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最高裁判例 調査官解説批評review


地方自治法255条の2第1項1号の規定による審査請求に対する裁決について、原処分をした執行機関の所属する行政主体である都道府県には、取消訴訟を提起する適格がないとされた事例
(令和4年12月8日第一小法廷判決 民集76巻7号1519頁)
藤 代  浩 則(千葉県弁護士会)
1 解説をした調査官

 本調査官解説は、和久一彦調査官(57期)の解説である。和久調査官は、平成31年4月1日から令和5年3月31日まで最高裁調査官を務め、令和5年4月1日から東京地裁民事第18部に配属されている。
 和久調査官は下記判決も担当している。

①地方自治法251条の5に基づく違法な国の関与(是正の指示)の取消請求事件(令和3年7月6日第三小法廷判決 民集75巻7号3422頁)
②納骨堂経営許可処分取消、納骨堂経営変更許可処分取消請求事件(令和5年5月9日第三小法廷判決民集77巻4号859頁)

2 事案の概要

 沖縄県副知事は、沖縄県の執行機関として、沖縄防衛局に対し、普天間飛行場の代替施設を沖縄県名護市辺野古沿岸域に設置するための公有水面の埋立て(以下「本件埋立事業」という。)に関してされた公有水面埋立法42条1項に基づく承認(以下「本件埋立承認」という。)につき、事後に判明した事情等を理由とする取消し(以下「本件承認取消し」という。)をしたが、国土交通大臣は、地方自治法255条の2第1項1号の規定(以下「本件規定」という。)による同局の審査請求(以下「本件審査請求」という。)を受けて、本件承認取消しを取り消す裁決(以下「本件裁決」という。)をした。
 そこで沖縄県は国土交通大臣の所属する行政主体である国を相手に本件裁決の取消しを求めて訴訟を提起した。 なお、普天間飛行場の代替施設を辺野古沿岸域に設置するための公有水面の埋立てをめぐる国と沖縄県との間の紛争に関しては、本事例以外にも次のような最高裁判決がある。

①沖縄県知事による埋立承認職権取消処分に関する事例(最二平成28年12月20日民集70.9.2281)
②埋立承認撤回処分に関する事例(最一判令和2年3月26日民集74.3.471)
③埋立設計概要の変更承認に対する不承諾処分に関する事例(最三判令和3年7月6日民集75.7.3422)
④地方自治法第251条の5に基づく違法な国の関与(是正の指示)の取消しを求めた事例(最一判令和5年9月4日民集77.6.1219)
⑤地方自治法第245条の8第3項の規定に基づく埋立地用途変更・設計概要変更承認命令請求事件(福岡高裁那覇支部判令和5年12月20日、最一決令和6年2月29日(上告不受理))

3 訴訟の経緯

(1)第1審判決(那覇地裁令和2年11月27日判タ1501.136)

 次のように判示して、最高裁平成14年7月9日第3小法廷判決(民集56巻6号1134号)(以下「平成14年判決」という。)を引用して、本件訴えは、沖縄県において、公有水面埋立法42条1項に基づく承認の権限及びこれに基づく取消しの権限の回復を求めるものであり、同法の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであるから、法律上の争訟に当たらず、沖縄県はその原告適格を有しないとして、本件訴えを却下した。

 「国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきであるが、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許されるものと解するのが相当である」「本件訴えは、原告が、沖縄県知事による埋立法上の承認権限の行使すなわち本件承認処分が事後的に承認要件を欠くに至ったことを理由にこれを撤回したこと(本件撤回処分)が適正であったと主張して、埋立法42条1項所定の承認権限(及びそれに基づく撤回権限)の回復を求めるものであるといえるから、自己の主観的な権利利益の保護救済を求める訴訟ではなく、埋立法という法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とした訴訟であるといえる。したがって、本件訴えは法律上の争訟に当たらないものというほかない。」「行訴法3条3項の裁決取消訴訟は、違法な裁決により権利利益を侵害された者の主観的な権利利益を保護するための訴訟であると解されるから、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的としてこれを提起することは想定されていないといわざるを得ない。したがって、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的として裁決の取消しを求める者は、行訴法9条にいう「法律上の利益を有する者」に当たらず、行訴法3条3項の裁決取消訴訟に係る原告適格が認められない。」「本件訴えは、沖縄県知事による埋立法上の承認権限の行使が適正であったと主張してその回復を求めるものであり、埋立法の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とした訴訟であると解される以上、原告は、本件裁決について、行訴法3条3項所定の取消訴訟を提起する適格を欠くものというほかない。」


(2)原判決(福岡高裁那覇支部令和3年12月15日訟務月報68.8.709)

 次のように判示して、本件訴えが法律上の争訟に当たるか否かの判断は留保した上で、自治権の侵害及び公物管理権の存在を理由として、本件裁決の取消しを求める「法律上の利益」を認めることはできないとして、本件訴えを却下した。

 「平成14年最高裁判決の事案は、地方公共団体(市)が条例に基づき私人に対して建築工事の中止命令を発したがこれに従わないため、それを民事執行手続で強制的に実現することを企図して、私人を被告として建築工事を続行してはならない旨の裁判を求めたものであり、地方公共団体が提起する訴訟のうち、上記のような事案については、法律上の争訟に当たらないと判示したものと解する余地がある。しかるに、本件訴えは、処分をした都道府県知事が属する地方公共団体である控訴人が、裁決をした国土交通大臣が属する国を被告として、行訴法3条3項に基づく取消訴訟として、行審法上の裁決の取消しを求めるものであり、平成14年最高裁判決とは事案を異にする。」「憲法における地方自治に関する規定は、一定の統治機構を制度として保障したものであり、憲法92条にいう「地方自治の本旨」の内実はかなり抽象的なものであること、そして、憲法にはその他に地方公共団体の機関等に関する規定(93条)、権能に関する規定(94条)、特別法に関する規定(95条)しか置かれていないことからすると、少なくとも、自治権といった広範な概念を措定して、憲法が、地方公共団体の行う事務(94条)全般における権能の行使に関し、私人が有する裁判を受ける権利と同等の保護を予定していると解することは困難であり、また、私人が裁判を受ける権利によって救済を認められるべき性格の権利利益と同等のものを保障していると断ずることも困難であるといわざるを得ない。」「国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして定められた法定受託事務に属する処分に対する審査請求がされて、所管の大臣が審査庁として処分の名宛人たる私人の利益となる内容の裁決をしたという場面において、処分庁の地位につき、その公権力の行使に関して、裁判を受ける権利に関して私人が置かれている地位と同等のものに置こうとする趣旨に出たものと解される条項は見当たらない。」「都道府県知事は国土交通大臣の監督を受けるべき立場にあり、また、埋立免許又は埋立承認の権限を行使する知事の属する都道府県につき、私人が裁判を受ける権利によって救済を認められるべき性格の権利利益と同等のものが当然に法律上保護されているとみることはできない。」「都道府県知事が埋立承認の撤回処分をしたことは、特定の海域(以下「本件埋立海域」という。)についての公物管理に係る権限を行使したものと解することができるが、上記の撤回処分により、都道府県知事に対してもたらされる埋立法上の効果は、単に、同一海域について再度埋立許可又は埋立承認をする権限を回復したというにとどまる。そして、埋立法上、埋立免許又は埋立承認を行うことに関して、地方自治体が、私人が裁判を受ける権利によって救済を認められるべき性格の権利利益と同等のものを当然に有するとはいえない」「控訴人が、本件埋立海域について、公物管理権を行使していることをもって、控訴人が、私人が裁判を受ける権利によって救済を認められるべき性格の権利利益と同等のものを享受しているということはできない。そうすると、公物管理権の存在を理由として、本件裁決の取消しを求める「法律上の利益」を基礎づけることはできず、この点に関する控訴人の主張は採用することができない。」

4 本判決(最一判令和4年12月8日 民集76巻7号1519頁)

(1)沖縄県からの上告に対して、最高裁は「地方自治法255条の2第1項1号の規定による審査請求に対する裁決について、原処分をした執行機関の所属する行政主体である都道府県には、取消訴訟を提起する適格がない」として上告を棄却した。

(2)判決の要旨

①地自法255条の2第1項1号(本件規定)の趣旨は、法定受託事務は国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものという性質を有していることから、判断の全国的な統一を図るとともに、より公正な判断がされることに対する処分の相手方の期待を保護することにある。

②地自法245条3号括弧書きの規定により、国と普通地方公共団体との間の紛争処理の対象にならないものとされている。その趣旨は最終的な判断である裁決について、さらに紛争処理の対象とすることは、処分の相手方を不安定な状態に置き、当該紛争の迅速な解決が困難となることから、このような事態を防ぐことにある。

③法定受託事務に係る都道府県の執行機関の処分についての審査請求に関し、当該都道府県が審査庁の裁決の適法性を争うことができる旨の規定が置かれていない。

④当該処分の相手方の権利利益の簡易迅速かつ実効的な救済を図るとともに、当該事務の適正な処理を確保するため、原処分をした執行機関の所属する行政主体である都道府県が抗告訴訟により審査庁の裁決の適法性を争うことを認めていないものと解すべきである。

⑤本件規定による審査請求に対する裁決について、原処分をした執行機関の所属する行政主体である都道府県は、取消訴訟を提起する適格を有しない。

5 調査官解説について

(1)本解説では、裁定的関与に対する抗告訴訟の許否の問題点を指摘し、学説及び最高裁昭和49年5月30日第一小法廷判決(民集28巻4号594頁)(以下「昭和49年判決」という。)を取り上げている。
  昭和49年判決は、次のように判示して、国民健康保険の保険者は、自らがした保険給付等に関する処分を取り消した国民健康保険審査会の裁決につき、上記審査会と上記保険者とは上級行政庁と下級行政庁と同様の関係に立ち、国民健康保険法は、保険者が事業主体として権利義務に影響が及ぶことを理由に上記審査会の裁決を争うことを認めていないといわざるを得ないとして、取消訴訟を提起する適格を有しないとした。
 「国民健康保険事業の運営に関する法の建前と審査会による審査の性質から考えれば、保険者のした保険給付等に関する処分の審査に関するかぎり、審査会と保険者とは、一般的な上級行政庁とその指揮監督に服する下級行政庁の場合と同様の関係に立ち、右処分の適否については審査会の裁決に優越的効力が認められ、保険者はこれによつて拘束されるべきことが制度上予定されているものとみるべきであつて、その裁決により保険者の事業主体としての権利義務に影響が及ぶことを理由として保険者が右裁決を争うことは、法の認めていないところであるといわざるをえない。このように解しても、保険者の前記のような特別な地位にかんがみるならば、保険者の裁判を受ける権利を侵害したことにならないことはいうまでもなく、もしこれに反して、審査会の裁決に対する保険者からの出訴を認めるときは、審査会なる第三者機関を設けて処分の相手方の権利救済をより十分ならしめようとしたことが、かえつて通常の行政不服審査の場合よりも権利救済を遅延させる結果をもたらし、制度の目的が没却されることになりかねないのである。以上の理由により、国民健康保険の保険者は、保険給付等に関する保険者の処分について審査会のした裁決につき、その取消訴訟を提起する適格を有しないものと解するのが相当である。」
 本判決では上記昭和49年判決には言及していない。本解説においても、昭和49年判決は、本件のような裁定的関与に対する抗告訴訟の許否それ自体について判断したものではなく、裁決に関する事項が国民健康保険法という個別の法律により規定されていたこと等から、その射程が直ちに本件に及ぶとまではいい難いように思われると説明している。しかしながら、昭和49年判決に関する佐藤繁調査官の解説を引用して、裁定的関与に対する抗告訴訟の許否を検討するに当たっても参考となる考え方を示しているということができるように思われるとして、本件を検討するに当たっては昭和49年判決との関係を示すことの必要性を指摘している。

(2)本解説では、「法定受託事務に係る都道府県の執行機関の処分について、裁定的関与に対する抗告訴訟が許されるか否かは、その前提となっている具体的な制度、すなわち、本件規定による審査請求及びこれに対する裁決に関する制度の趣旨を検討して判断すべきこととなる。」として、昭和49年判決を踏まえたうえで検討している。

(3)和久調査官の検討は裁定関与に対する抗告訴訟の許否について消極説によるものであり、本判決中において示された理由と異なるところはない。そこで、本解説で示された理由について以下検討する。

ア 次のとおり国地方間の関与について一般の抗告訴訟の提起を認める積極説が通説である。

 「地方公共団体が広い意味での国家の統治構造の一環をなすことはいうまでもないところであるが、地方公共団体は、国から独立して自己の目的と事務をもつ公法人であるから、国と地方公共団体との間の争いがつねに機関訴訟であるというのは、妥当でない」(成田頼昭「地方自治の保障 著作集」(2011年 第一法規)131頁)。

 「地方自治の保障という憲法原理が妥当している現行法秩序においては、その有機的関連性乃至協力関係の保持が、国家関与における国家行政機関の意思の優越性という形で担保されるべきものとは考えられない。むしろ国家関与の根拠及びその態様が法律の留保に属し、その範囲内の関与にのみ地方公共団体が服従するとみるべきであろう。そうだとするならば、国家関与がその限界を越えた場合には、その是正手段が制度上存在していなければならないはずであるし、また、その是正の要求が、個別地方公共団体の自治権の侵害の排除という形を取る限りにおいて具体的権利義務に関する訴訟として、裁判所による救済の方法が認められると考えられる。地方自治の保障は、制度的保障と理解されるとしても、そのことと、裁判所の救済の対象と案る権利の存否とは別問題である」(塩野宏「国と地方公共団体」(1990年有斐閣)36頁)。「監督権の違法な行使は、地方公共団体たる法人が国に対して有する自治権の侵害にあたるのであって、日本国憲法の地方自治の保障の充実の見地からすると、これに対して、地方公共団体が裁判所に救済を求めることができ、その訴訟は、現行法では行政事件訴訟法の抗告訴訟に該当すると解される。」(塩野宏「行政法V 第5版」(2021年 有斐閣)276頁)。

 「自治組織の自治権は個人の参政権ないし参加権を基礎としている。自治組織が自治権を究極的には裁判により貫徹する権能が認められないと、個人の参政権ないし参加権がそれだけ弱められることを考えなければならない。」「地方公共団体や国立大学の自治権のように、分節化等された行政の主体の権限が憲法に基礎を置く場合、その権限を他の行政機関が終局的に判断するのは、基本的に憲法の趣旨に沿わない。原則として訴権を認めるべきと考えられる。憲法が直接絶対的に保障する権限だけでなく法律等により形成された権限も貫徹するために訴権が認められるのは、私人の権利が法律等により形成されたものでも憲法上訴権を保障されるのと同様である」(山本隆司「行政の主体」『行政法の新構想T』(2011年 有斐閣)108頁)。

 「国地方係争処理手続の一環としての関与取消訴訟は、本来的には、行政主体たる国と地方公共団体との間の独立法主体間の訴訟であるが、・・・地方自治法の特別の定めにより、「地方公共団体の長その他の執行機関」が原告となり、「国の行政庁」を被告として高裁に提起する機関間の特別な訴訟として、「機関訴訟」と定められたものである。従って、この訴訟自体は、「法律上の争訟」に当たらないと解されるが、関与をめぐる国地方間の訴訟が機関訴訟として法定されたことは国と地方公共団体の間のこのような紛争が、もともと裁判所法3条1項の「法律上の争訟」ではない、ということまでも意味するわけではない。」(人見剛「辺野古埋立承認撤回処分取消裁決の取消請求事件」(自治総研通巻546号49頁))

イ 和久調査官は、本件規定の主な趣旨は、都道府県の法定受託事務に係る処分については、当該事務が「国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する費用があるもの」という性質を有することに鑑み、審査請求を国の行政庁である各大臣に対してすべきものとすることにより、国の判断を都道府県の判断に常に優先させることを通じて、当該事務に係る判断の全国的な統一を図るとともに、より公正な判断がされることに対する処分の相手方の期待を保護することにあると指摘している。

ウ 和久調査官は、国の判断を都道府県の判断に常に優先させることを認めているが、係る考えは、国の行政庁を上級行政庁、都道府県の執行機関を下級行政庁とし、上下関係を認めていた機関委任事務を廃止するなどして国と地方公共団体とを対等な立場にするとした地方分権改革の趣旨に悖るものである。
 また、法定受託事務が本来は国が果たすべき事務であるから、国のみが正しい判断をすることができるとの考え方自体に問題がある。法定受託事務であっても当該事務は都道府県の事務であり、他の事務と同様に当該地域の実情に合わせて事務を行うのであるから、国の判断が公正であるとは限らないし、必ずしも全国的な統一を図る必要もない。国と都道府県との判断が異なるのであれば、司法機関である裁判所において判断するべきである。そして国の判断を最終的な判断とするのであれば、それは行政機関による審判を「終審」と認めたことになるのであって、これを禁じた憲法76条2項に反する。

(4)本解説では、「関連する問題」として「憲法との関係について(憲法適合的解釈の要否)」と「公物管理権との関係について」についても説明している。

ア「憲法との関係について(憲法適合的解釈の要否)」について

 本判決は、国の裁定的関与を受けた地方公共団体に対する司法上の救済を否定するものであるため、憲法上の地方自治の本旨に反しないかが問題となり得るとして問題提起しつつ、憲法に違反しないと結論づけている。
 係る結論に至る理由として、裁決の適否を裁判上争う手段が確保されるという都道府県の利益と、裁決により簡易迅速かつ実効的な救済を受けられるという私人の利益とが対立するところ、前者が後者に当然に優越すると解すべき憲法上の根拠があるとまでいい難く、前者の利益を保護することが「地方自治の本旨」と成すとまではいい難いことを挙げている。
 本件における「私人」とは、沖縄防衛局であり国の機関である。沖縄防衛局に関しては、行審法7条2項にいう「固有の資格」に関する事件において、最高裁は「固有の資格」性を否定した(最高裁令和2年3月26日第一小法廷判決民集76.3.471)。この令和2年判決は批判が多いところ、仮に同判決に従って上記利益衡量を検討するに、後者の「私人の利益」とは沖縄防衛局の利益であり、その利益の帰属主体は国に他ならない。とすると、都道府県の利益と国の利益とを秤に掛けることになり、後者すなわち国の利益を重視したに等しい結論となってしまう。係る結論は、地方公共団体と国とを対等な関係とした地方分権の趣旨にするものである。令和2年判決を当然の前提とした利益衡量は、公水法の処分の相手方が沖縄防衛局という国の機関であるという本件の特殊性を考慮しない形式的な解説といわざるを得ない。また、批判の多い令和2年判決を前提とするのであれば、同判決を支持する理由を明確に示したうえで説明をすべきであったと思われる。

イ「公物管理権との関係について 」について

 「都道府県知事が公有水面埋立法42条1項に基づく承認の取消しをした場面については、仮に当該取消しがその対象である水域に対する管理権の行使に該当すると評価し得るとしても、当該管理権の内実は、飽くまで当該取消しに係る権限そのものに他ならないといわざるを得ないであろう。そうすると、本件裁決については、Xが原処分である本件承認取消しをした執行機関の所属する行政主体としての地位から完全に独立した利益を有するとは認め難い。」として、「法律上の利益」は認められないとした。
 和久調査官の上記解説は、公有水面が国の所有に属することや、都道府県知事は国土交通大臣の監督を受ける立場にあることなどを理由として、「法律上の利益」を否定した原判決の考え方と軌を一にするものである。しかしながら、係る考え方に対しては、公有水面が国の所有に属するとされるのは、あくまでも財産管理であり、しかも法定受託事務として都道府県が管理していることからすれば、機能管理については地方公共団体の自治権の内容としての一般管理に服しており、海域も含めた区域の空間管理は、地方公共団体の本来的任務である、との沖縄県側の上告理由に対して何らの反論もしていない。一方的に見解を示すだけでは解説としては不十分である。

(5)最高裁は第1審が争点とした「法律上の争訟性」についても、原判決が争点とした「法律上の利益」についても、検討していない。
「法律上の争訟性」については、平成14年判決の射程範囲に関わるものであるから、最高裁としては言及して然るべき争点である。本判決において「法律上の争訟性」について言及していないことについては、「『法律上の争訟』性を認め、それを前提しているかは不明確であり、その判断を留保しているとの理解も可能である」とする判例解説(中嶋直木・新判例解説Watch行政法No.236)、「本件訴訟の『法律上の争訟』性を否定しなかった高裁判決を前提とし、本件訴訟の『法律上の争訟』性をあえて否定しなかった判決と受け止めたい」とする判例解説(人見・前掲論文)とがある。平成14年判決については批判的な学説が多いところ(塩野宏「行政法U 第6版」(2019年 有斐閣)299頁、宇賀克也「行政法概説U 第7版」(2021年 有斐閣)110頁)など)、本件においても最高裁がどのような判断をするのか注目されていたと思われる。学説に対する批判に応えるためにも担当調査官としては最高裁が「法律上の争訟性」についていかなる立場に立って本件を検討したのかを解説するべきであった。
 本解説では、本文中で「当該判断(注 原審の判断)の中で示された取消訴訟の原告適格を基礎付ける「法律上の利益」の一般的な解釈論については採用しなかったものと考えられる」とし、後注24においても「特定の立場を表明するものとは評価し難いであろう」と評するのみで、明確な解説をしていない。判決に関与した担当調査官の解説としては消化不良の感が否めない。


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