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最高裁判例 調査官解説批評review


辺野古訴訟の調査官解説について〜和田山弘剛「法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分がその根拠となる法令の規定に違反するとして、これを取り消す裁決がされた場合において、都道府県知事が上記処分と同一理由に基づいて上記申請を認容する処分をしないことは、地方自治法245条の7第1項所定の法令に規定に違反していると認められるものに該当するか。」の検討
(令和5年9月4日第一小法廷民集77巻6号1219頁)
白 藤  博 行(第二東京弁護士会)

1.いわゆる「辺野古訴訟」における「9.4最判」の位置


 調査官解説は、最高裁第一小法廷令和5年9月4日(以下、「9.4最判」という。)に関するものであり、掲載誌は法曹時報76巻8号(2024年)225頁〜244頁(「最高裁判所判例解説」2347頁〜2366頁、本稿では、「法曹」・・頁と引用表記)である。辺野古新基地建設をめぐる沖縄県と国との間の一連の訴訟、いわゆる「辺野古訴訟」は、以下の「これまでの訴訟一覧」(沖縄県新基地問題対策課HP)によれば、故翁長知事が行った埋立承認処分の取消関係訴訟、謝花副知事が行った埋立承認処分の取消(撤回)関係訴訟、及び玉城知事が行った変更不承認処分の関係訴訟の訴訟の総称である。このうち「9.4最判」は、玉城知事が行った変更不承認処分に係る⑪「関与取消訴訟(是正の指示)の最高裁判決(上告棄却)であり、⑭代執行訴訟に直接繋がる最重要の最高裁判決である。本稿では、できるだけ調査官解説の説明に沿って検討する 。(脚注1)。

2.「9.4最判」に係る「事案の概要」等と「判決の概要」


【事案の概要】最高裁の整理による事案の概要は以下のとおりである。
 沖縄防衛局は、普天間飛行場の代替施設を沖縄県名護市辺野古沿岸域に設置するための公有水面の埋立てに関し、公有水面埋立法42条3項において準用する同法13条ノ2第1項に基づき、埋立地の用途及び設計の概要に係る変更の承認の申請(以下「本件変更申請」という。)をしたところ、上告人(沖縄県知事)は変更を承認しない旨の処分(以下「本件変更不承認」という。)をした。被上告人(国土交通大臣)は、沖縄防衛局の審査請求を受けて、本件変更不承認を取り消す裁決(以下「本件裁決」という。)をし、その後、地方自治法245条の7第1項に基づき、沖縄県に対し、本件変更申請に係る変更の承認(以下「本件変更承認」という。)をするよう是正の指示(以下「本件指示」という。)をした。本件は、上告人が、本件指示は違法な国の関与に当たると主張して、同法251条の5第1項1号に基づき、被上告人を相手に、本件指示の取消しを求める事案である。

【事実関係等の概要(福岡高裁那覇支部令和5年3月16日判決(以下、「3.16高判」より)】
 沖縄防衛局は、普天間飛行場の代替施設を設置するため、平成25年3月22日、沖縄県知事に対し、沖縄県名護市辺野古に所在する辺野古崎地区に隣接する水域の公有水面の埋立ての承認を求めて願書を提出し、同年12月27日、その承認を受けた。
 沖縄防衛局は、上記承認の後に判明した事情を踏まえ、地盤改良工事を追加して行うなどするため、令和2年4月21日付けで、上告人に対し、本件変更申請をした。上告人は、令和3年11月25日付けで、公有水面埋立法42条3項において準用する同法13条ノ2第1項並びに同法42条3項において準用する同法13条ノ2第2項において準用する同法4条1項1号及び2号の各規定(以下「本件各規定」という。)の要件に適合しないなどとして、本件変更不承認をした。なお、本件変更申請に係る沖縄県の事務は法定受託事務である(同法51条1号、地方自治法2条9項1号)。
 沖縄防衛局は、本件変更不承認を不服として、令和3年12月7日付けで、地方自治法255条の2第1項1号に基づき、公有水面埋立法を所管する大臣である被上告人に対し、審査請求をした。被上告人は、本件変更不承認に係る上告人の判断は裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであって、本件各規定に反し違法であるなどとして、令和4年4月8日付けで、本件変更不承認を取り消す旨の本件裁決をした。
 上告人は本件裁決後も本件変更承認をしなかったところ、被上告人は、これが上告人の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであり、「都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反している」(地方自治法245条の7第1項)と認められるなどとして、令和4年4月28日付けで、沖縄県に対し、本件変更承認をするよう本件指示をした。 上告人は、本件指示を不服として、令和4年5月30日付けで、国地方係争処理委員会(以下、単に「係争委」ともいう。)に対し、地方自治法250条の13第1項に基づく審査の申出をしたが、同年8月19日付けで、本件指示は違法でないと認める旨の審査の結果の通知を受けた。上告人は、これを不服として、同月24日、同法251条の5第1項1号に基づき、本件訴えを提起した。上告人は、本件変更申請が本件各規定の要件に適合しないなどとした上告人の判断は適法であるから、本件指示は違法であるなどと主張している。

【「9.4最判」の判決の概要】
 法定受託事務に係る都道府県知事の処分についての審査請求に関しては、原則として行政不服審査法の規定が適用されるところ(同法1条2項)、同法は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とするものである(同条1項)。そして、同法は、52 条1項において、審査請求がされた行政庁(以下「審査庁」)がした裁決は関係行政庁を拘束する旨を、同条2項において、申請を棄却した処分が裁決で取り消された場合には、処分をした行政庁(以下「処分庁」)は、裁決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければならない旨を規定しており、これは審査庁が処分庁の上級行政庁であるか否かによって異なるものではない。その趣旨は、処分庁を含む関係行政庁に裁決の趣旨に従った行動を義務付けることにより、速やかに裁決の内容を実現し、もって、審査請求人の権利利益の簡易迅速かつ 実効的な救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することにあるものと解される。
 そうすると、法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分について、これを取り消す裁決がされた場合、都道府県知事は、上記裁決の趣旨に従って、改めて上記申請に対する処分をすべき義務を負うというべきである。仮に、上記裁決がされたにもかかわらず、都道府県知事が上記処分と同一の理由に基づいて上記申請を認容する処分をしないことが許されるとすれば、処分の相手方が不安定な状態に置かれ、紛争の迅速な解決が困難となる事態が生ずることとなり、上記裁決が国と普通地方公共団体との間の紛争処理稿の対象にならないものとされていること(地方自治法245条3号括弧書き)に照らしても、相当でない。
 以上によれば、法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分がその根拠となる法令の規定に違反するとして、これを取り消す裁決がされた場合において、都道府県知事が上記処分と同一の理由に基づいて上記申請を認容する処分をしないことは、地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当する。
 前記事実関係等によれば、本件裁決は本件変更不承認が本件各規定に違反することを理由として本件変更不承認を取り消したものであるところ、上告人は本件変更不承認と同一の理由に基づいて本件変更承認をしないものといえるから、そのことは地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当する。以上のとおりであるから、本件指示は適法であるとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

3.調査官解説の批判的考察


3-1.「問題の所在」(「法曹」230頁以下)
 本件の最大の争点は、国交大臣が沖縄県知事に対して行った変更承認を求める是正の指示(自治法245条の7第1項)の適法性である。すなわち沖縄県知事の法定受託事務の処理が「法令に規定に違反しているとき」(以下、「法令違反」)又は「著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるとき」のいずれかの要件(以下、両者を合わせて「法令違反等」というもいう。)を充足しているか否かである。
 この点、調査官解説の「問題の所在」によれば、「本件変更承認をしないという沖縄県の法定受託事務の処理が法令違反要件を満たすか否かが争点」としつつも、本件の特色は、是正の指示に先立って、審査請求に対する国交大臣の取消裁決がなされたにもかかわらず、知事が埋立変更承認処分をしなかった経緯にあるとし、その結果、「法令違反要件の判断に当たって、裁決の拘束力が生じていることを前提とすべきか否かが問題となった」としている。「9.4最判」が裁決の拘束力を最大の争点とした肝である。
 西上治も、その「判例批評」において、「本件裁決の拘束力が本件訴訟に及ぼす作用が争点となった」(脚注2)としたうえで、国交大臣は知事の処分が法令違反等に当たる理由として「沖縄県知事は本件裁決に拘束されることから、沖縄県知事が本件変更不承認と同一の理由で本件変更承認をしないことは違法であることを挙げた」と指摘する。しかし、問題は、国交大臣が「挙げた」とされる裁決の拘束力に違反する違法の理由は、どの立場の国交大臣が、いつ挙げたものかである。少なくとも国交大臣が変更承認を求める是正の指示においては、裁決の拘束力に違反する違法はまったく理由とされていない(脚注3) 。  管見の限りでは、裁決の拘束力は沖縄県の審査の申出に対する国地方係争処理委員会の審査過程で提出された国交大臣の答弁書(国水政第42号、令和4年6月15日)で初めて主張され、係争委がほぼこの主張を認める判断をしたことが確認できる(国地委第43号、令和4年8月19日。以下、「8.19通知」)。この結果、係争委の判断とこれを否定する原審の「3.16高判」との間に際立った違いが認められることとなった。これに対して最高裁は、「法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分がその根拠となる法令の規定に違反するとして、これを取り消す裁決がされた場合において、都道府県知事が上記処分と同一の理由に基づいて上記申請を認容する処分をしないことは、地方自治法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当する。」と結論して決着をつけたことになる。そこで本稿では、この判断の妥当性についての調査官の「説明」の妥当性を検討することを最大の課題としたい。以下、項を改めて論じたい。

3-2. 裁決の拘束力論(「法曹」237頁以下)
 この点、調査官は、「法令違反要件の判断に当たって、裁決の拘束力が生じていることを前提とすべきか否かが問題となった」と指摘するが、「9.4最判」では、「裁決の拘束力」問題が「前提」ではなく、もはや本論になり、かつ、すべてになっている。そこで、以下、「裁決の拘束力」論について検討する。

3-2-1. 係争委による裁決の拘束力論〜是正指示理由書における内容及び理由の記載の観点から
 まず、係争委の「8.19通知」は、審査申出人である沖縄県が審査申出書及び反論書において本件変更不承認処分における審査申出人の裁量判断が適正であると主張した内容が、「本件埋立承認後の土質調査の結果等を踏まえてされた本件変更承認申請の内容等、本件変更不承認処分と本件裁決が前提とした事実関係の下で、本件変更不承認処分で不充足とした各要件について、それらを充足しないことを改めて主張するものである。以上のような審査申出人の主張に照らせば、審査申出人は、本件裁決が前提としたのと同一の事実関係の下で、本件裁決で違法かつ不当とされたのと同一の理由により、本件裁決後も本件変更承認申請について承認していないものと認められる。このような審査申出人の事務の処理は、本件裁決の拘束力に基づく上記義務に違反しているものと認められる」と認定している。
 この認定にかかわって素朴な疑問がある。国地方係争処理委員会も認めるところであるが、本件裁決が、国交大臣の裁決がなされた時点(令和4年4月8日)ですでに効力を発揮しているのであれば、その時点から裁決の拘束力は生じているはずである。そうであれば是正の指示が行われた時点(令和4年4月28日)で、なぜ裁決の拘束力に違反する違法を是正の指示の理由のひとつ(法令違反等)として挙げなかったのであろうか(脚注4)、といった疑問である。
 沖縄県は、令和4年5月30日に審査の申出を行い、令和4年6月24 日の反論書で変更不承認処分の適法性を「改めて主張」することになるが、この点について、係争委は「審査申出人の主張に照らせば」、沖縄県は「本件裁決後も本件変更承認申請について承認していないものと認められ」、「このような審査申出人の事務の処理は、本件裁決の拘束力に基づく上記義務に違反しているものと認められる」としている。あたかもこの時点で初めて変更不承認処分後の不承認の維持に裁決の拘束力に基づく義務違反の違法があると判断したように読める。この間の経緯を今一度振り返ると、国は、係争委での審査の過程で上記国の答弁書(令和4年6月15日)で初めて裁決の拘束力論を主張し始めた。この裁決の拘束力論によれば、同年4年4月8日の裁決、これと同時になされた勧告(同年4月20日までに変更承認を求める内容)、そして同年4月28日の是正の指示にいたるまでの間も、沖縄県は、裁決に従った行動を義務づけられ同一理由で同一処分を行うことが禁止されたということになるはずであるが、沖縄県は何ひとつ同一理由で同一処分を行ったわけではなく、いわれるところの禁止行為をなしているわけではない。これのどこが、同一理由で同一処分を行ったというのであろうか。それより国や係争委が主張するように、もし裁決後に裁決の拘束力が生じているというのならば、なぜ同年4月28日付の是正の指示において、裁決の拘束力に違反した違法を理由にした法令違反等を指摘しなかったのか。この時点で、「是正の指示」は裁決の拘束力に係る法令違反等を理由に挙げていないということは、これを理由とした是正の指示に従わないことを違法であると認めているわけではないということである。係争委は、その審査過程で初めて国から出された裁決の拘束力論を契機に、また沖縄県が同審査過程で変更承認申請に係る要件不充足を「改めての主張」したことを契機に裁決の拘束力に違反する違法を認める判断をしているが、このような後出しジャンケンのごとき判断が許されるのだろうか。
 事は重大である。地方自治法上の関与である是正の指示の適法性を考える場合、是正の指示の内容だけでなく関与の手続も、関与の適法性を左右する重要な論点である。調査官解説も、その「立法の経緯」(231頁以下)において、1999年改正地方自治法の趣旨・目的に言及しているが、同法は関与の法定主義を始め、かなり厳格な関与の制限の仕組みを立法化している。同法では、関与の要件を定めるだけでなく、関与の手続についても明定し、「是正の要求、指示その他これらに類する行為」(是正の要求等)を行う場合については、「当該是正の要求等の内容及び理由を記載した書面を交付しなければならない」(249条)と規定している。行政手続法に倣った適正手続保障を関与手続にも求めているものである。これによれば、本件是正の指示を行うにあたっても、当然、内容及び理由を記載した書面を交付しなければならないはずである。上述したように、本件是正の指示書をみる限り、沖縄県の第1号法定受託事務の処理に裁決の拘束力に違反する違法があり、これが地方自治法245条7の要件である法令違反等に該当することの指摘はまったくみられない。これは、裁決が知事の不承認処分の取り消しを求めるものであり、是正の指示は変更承認を求めるものであるといった違いがあるにもかかわらず、両者の内容は実質的にまったく同じ内容である(いわゆるコピーアンドペーストである。)ことに起因するのであろう(詳しくは後述)。この事実からすれば、係争委において初めて挙げられた国の裁決の拘束力論は、是正の指示を行った時点では念頭になく、係争委の審査過程でなされた後付けの理由であることが推定できる。地方自治法上、是正の指示書にない理由でもって是正の指示を行うことは許されず、明らかに地方自治法の規定に違反する手続的瑕疵がある違法な関与であるといわねばならない。もし是正の指示の理由書に個別的具体的に挙げられていない理由をもって権力的関与が許されることになれば、「理由なき権力的関与」が許容されることになり、1999年改正地方自治法の関与の仕組みは根底から覆されることになる。
 結局、本件是正の指示書は国交大臣の裁決書をコピペしているだけであることから、必然的にその理由において裁決の拘束力論を展開することが不可能であったという不都合な事実が明らかとなる。それとも是正の指示をするにあたって、そもそも裁決の拘束力論などまったく念頭になかったのか、ほんとうの理由は国交大臣のみが知るところであろうが、いずれの理由によるとしても手続的瑕疵のある違法な是正の指示である。それにもかかわらず係争委が、裁決や是正の指示書の具体的内容をまったく検討もせず、不意打ちのごとき国交大臣の「裁決の拘束力」論を認める愚を犯し、せっかく原審の「3.16高判」がこの点を正したにもかかわらず、最高裁が何らの理由を示すことなく裁決の拘束力論を再生して、フェイクストーリーを作り上げてしまったということになる (脚注5)。係争委と最高裁は、いったい何を観て法的判断をして係争審理・裁判審理をしているのか、それぞれの存在理由が問われるところである。

3-2-2.「3.16高判」による裁決の拘束力の否定論
 それでは、係争委の裁決の拘束力論を真っ向から否定した原審の「3.16高判」(民集76巻6号1291頁以下、「(本件裁決の拘束力が本件訴訟に及ぼす作用)について」は1346頁以下)をみておこう。おおむね以下のように要約できる。
① 裁決の拘束力に係る前提的理解として、裁決の拘束力の制定趣旨は、裁決が争訟手続を通じてされる処分であることから、これに由来する特別の効力を付与することとし、処分庁を含む関係行政庁をして、すみやかに審査請求の裁決に示された内容を実現させることにある。したがって裁決の拘束力は、処分庁及びその関係行政庁と当該処分に不服のある審査請求人との間の公法上の法律関係に関する紛争につき一定の解決をもたらすために認められた効力であり、この拘束力は、裁決主文を導き出すのに必要な、裁決理由中の要件事実の認定及び法律判断について生じると解する。
② 第一号法定受託事務に係る法令の「所管大臣は、都道府県知事に対して一般的な指揮監督権を有する 上級行政庁たる関係にはないことから、審査庁として審査請求に理由があると認めたとしても、裁決により処分の取消しができるにとどまり、審査請求人の簡易迅速な救済を図るなどの制度趣旨を考慮して、裁決に一定の終局性が付与されている(最高裁令和4年(行ヒ)第92号同年12月8日第一小法廷判決参照)とはいえ、当該処分を変更して自ら処分をすることができず(行審法46条1項ただし書)、法定受託事務に属する埋立法42条1項に基づく事務を自ら行うことはできない」。
③ 「裁決と是正の指示との相違及び関与取消訴訟との関係」について、「地方自治法は、行審法に基づく審査請求について審査庁が行った裁決については「国の関与」から除外しており(245条3号)、そのため、都道府県知事は、所管大臣が審査庁として行った裁決を対象として、地方自治法上の関与取消訴訟を提起することができない。その趣旨は、処分の相手方と処分庁との紛争を簡易迅速に解決する審査請求の手続における最終的な判断である裁決について、さらに関与取消訴訟の対象とすることは、処分の相手方を不安定な状況に置き、当該紛争の迅速な解決が困難となることから、このような事態を防ぐことにある。しかしながら、地方自治法は、所管大臣が、法定受託事務に関して審査庁として行った裁決(処分を取り消す旨のもの)に重ねて、地方自治法に基づき、是正の指示(特定の内容の処分を行うべきことを命じるもの)を行った場合について、都道府県知事が是正の指示を対象として関与取消訴訟を提起することを禁止していない(このこと自体については当事間に争いがない。)。また、裁決の拘束力により都道府県知事の主張立証が制限される旨の明文の規定も、置かれていない。」「関与取消訴訟の判断の対象は、裁決の適否ではなく、是正の指示の適否であることを前提とした上で、(1)単に処分の取消しを命じる裁決と特定の内容の処分を行うことを命じる是正の指示とでは、その内容において異なる点や、(2)是正の指示は、その根拠として示された判断内容を問わず、都道府県知事に対し当該処分を行うべき義務を負わせるものであり、・・・裁決の拘束力(行審法52条)を超える法的効果を有する点などにおいて、両者には行政行為として本質的な相違があることを踏まえたものであると解される。そして、関与取消訴訟の手続においては、処分の名宛人たる私人の手続関与など、その権利利益の保護を企図した規定は見当たらず、また、判決効については、是正の指示の取消しを命じる判決には第三者効がないとされており(地方自治法251条の5第8項は行政事件訴訟法32条の準用を排除している。)、処分の名宛人に対しては効力が及ばない。このように、地方自治法は、所管大臣が、法定受託事務に関して審査庁として行った裁決に重ねて、特定の内容の処分を行うべきことを命じる是正の指示を行った場合については、是正の指示によって新たに生じた公法上の法律関係につき、都道府県知事が関与取消訴訟を提起して争うことを許容しており、この場合の関与取消訴訟においては、審査請求人の関与を必要とせず、地方公共団体の長本来の地位の自主独立の尊重と、 国の法定受託事務に係る適正な確保との間の調和を図るという制度趣旨に基づき、行審法上の争訟手続とは独立して、国と普通地方公共団体との間で生じた法定受託事務に関する係争を解決するための司法審査が行われることを予定している。」
 以上の「3.16高判」の裁決の拘束力の否定論は、私見では、①〜③のいずれも、憲法が保障する地方自治の本旨にさかのぼり、これを前提に地方自治法及び行政不服審査法を解釈する解釈態度が見受けられ、きわめて説得力のある結論を導いていると思われる 。(脚注6)。

3-2-3. 調査官による裁決の拘束力の肯定論(「法曹」235頁以下)
 さて、係争委と「3.16高判」との間における裁決の拘束力についての考え方の違いについて、調査官解説はどのように説明をしているのだろうか。

【行審法の裁決の拘束力の一般論】(「法曹」235頁以下)
 まず、裁決の拘束力に関する行政不服審査の規定(52条1項及び2項)は、審査庁が処分庁の上級行政庁であるか否かにかかわらず、処分庁を含む関係行政庁に裁決の趣旨に従った行動を義務づけることにより、すみやかに裁決の内容を実現し、もって、審査請求人の権利利益の簡易迅速かつ実効的な救済を図るとともに、行政の適正な運営確保することにあるものといった一般論が展開される。これによれば、法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分について、これを取り消す裁決がされた場合、都道府県知事が、上記裁決の趣旨に従って、改めて上記申請に対する処分をすべき義務を負うことは、行審法の規定から明らかであり、法令違反要件の判断に当たっても、これと異なる前提に立つべき根拠は見当たらないとして、「9.4最判」を完全にフォローするものとなっている。

【いわゆる「裁定的関与」の制度趣旨論】(「法曹」236頁以下) 
 ただ調査官は、これを補足して、1999年地方自治法改正前後の制度的相違に言及する(特に、地方自治法255条の2)ところが重要である。すなわち、機関委任事務制度のもとでは、「審査庁である主務大臣」による知事の処分の変更裁決が可能であったが、現行地方自治法のもとでは「審査庁である各大臣」による知事の処分の変更裁決や義務づけ裁決が不可能となり、処分庁である知事は、当該「裁決の趣旨に反しない限度で、申請に対する処分を再度行う権限が留保されている」とまず説明される。しかし、同改正自治法は、「地方公共団体の自主性・自立性の確保を他の法益より常に優先して保障しようとしたものであるとまではいい難い。すなわち、同法は、法定受託事務に係る都道府県知事の処分については、法定受託事務の統一的な処理の必要や処分の相手方の権利利益の救済の要請等を考慮して、同法による改正前におけるのと同様に、国の機関である各大臣に対して審査請求をすべきものとし、都道府県知事を含む関係行政庁が国の機関である審査庁の裁決に拘束されるという仕組みを存置することとしたものである」というように、いわゆる「裁定的関与」の制度趣旨を説明してみせる。ただ、この「裁定的関与」制度に関して学説上の議論があることは承知しつつも、「行政上の不服申立制度の設計は基本的に立法政策に属する問題である」として、 また、この間、法定受託事務に係る不服申立制度のあり方について見直しの要否が議論されてきたものの、規律変更がない限り、「裁決の拘束力を無視して法令違反要件を判断すべきとする見解(脚注7)は、現行法の解釈論として採用し難いように思われる」と結論する。
 この調査官解説には、地方自治法255条の2の法定受託事務に係る新たな「裁定的関与」制度を、地方分権改革で廃止された機関委任事務制度のもとでの「裁定的関与」のあたかも代替制度として機能させるといった意向が強くみられる。同法の「改正前におけるのと同様に」といった表現からは、機関委任事務制度との連続性が強調されているようにみえ、「国の機関である各大臣に対して審査請求をすべきものとし、都道府県知事を含む関係行政庁が国の機関である審査庁の裁決に拘束されるという仕組みを存置することとした」というが、たしかに「国民の権利利益の救済」とともに「行政の適正な運営を確保すること」を目的とする行審法の審査請求を利用できるとしたことは制度の重要な部分であるが、都道府県知事を含む関係行政庁が国の機関である審査庁の裁決に拘束されるという仕組みの「存置」をことさら強調する必要はない。法定受託事務のもとでの新たな「裁定的関与」としての解釈・運用が大事である。このような観点からすれば、調査官解説は、旧機関委任事務に係る関与主体である「主務大臣」から現行の地方公共団体の事務に係る関与主体である「各大臣」へと、地方自治法の文言が替わったことの意味を正しく反映した解釈とは思えない。ここには裁決の拘束力の具体的な作用(違法判断)を是正の指示の発動要件たる「法令違反等要件」に直接的に結びつけようとする意図が鮮明であるといえば、いい過ぎだろうか。

【裁決の拘束力の具体的な作用と法令違反要件】(「法曹」237頁以下)
 次に、取消裁決の拘束力を取消判決の拘束力(行政事件訴訟法32条)と「同様のもの」、あるいは「取消判決に対応するもの」と解釈する意図が明確に示されている。もちろん取消判決の拘束力に関する学説上の論争はあるものの、裁決の拘束力を取消判決に対応させる考え方は一般的であるように思われる(脚注8)。「取消判決の拘束力の作用として、取消判決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をすべき義務を定めたもの」であるとか、当該義務に違反する処分庁の作為又は不作為が違法であることや繰り返し禁止効の承認は、誰もが異論がないであろうというのも、その限りでは正しい認識であると思われる。しかし、調査官の場合、取消判決の拘束力の作用が裁決の拘束力にも認められるという点だけが主張したいように読める。この点、裁決の拘束力が取消判決の拘束力と「同様のもの」あるいは「取消判決に対応するもの」とする説明の根拠がまったく示されていないことが原因であろう。次項で、この点の問題について検討しておこう。

【裁決による処分庁の実体法上の一般的義務の個別的具体的定立論】(「法曹」238頁)
 調査官の取消判決の拘束力と取消裁決の拘束力の意義を同視するかにみえる解釈で重要なのは、裁決の拘束力の作用が、取消判決の拘束力と同様に、「処分庁の実体法上の一般的な義務を個別具体的に定立し、これを明確にするものである」という点である。この主張は、取消判決の拘束力の意味について、処分庁の「実体法上の一般的な義務を個別具体的に定立し、これを明確にするものである」とする原田尚彦の見解(脚注9)に、その根拠が専ら求められている。そして、「申請を棄却した処分が違法であるとしてこれを取り消す裁決の拘束力についても、別異に解すべき理由は見当たらない」と結論するものである。
 この点でおそらく調査官にとってより重要なのは、次のくだりであろう。「処分庁は、改めて申請に対する処分をするに当たり、実体法上付与された裁量権を、裁決によって個別具体的に定立された範囲内で行使すべきものと解される。したがって、本件のように処分の違法を理由にこれを取り消す裁決を経た事案における法令違反要件の判断に当たっては、処分庁の実体法上の一般的な義務が裁決によって個別具体的に定立されていることを前提に、処分庁に付与された裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるか否かを検討する必要があると解される。そして、このことは、是正の指示に係る関与取消訴訟において、是正の指示がその適法要件を充足しているか否かを客観的に審理判断すべきであることと、何ら矛盾するものではない」というところであろう(脚注10)。
 さて、このような裁決の拘束力論が、是正の指示の適法要件審査における客観的な審理判断の必要性と何ら矛盾するものではないといえるか否かが最も問題である。そもそも個別法律(調査官は「実体法」と表記しているが、本件でいえば、公有水面埋立法を指すことになるのであろう。)が授権した処分庁の処分権限に係る裁量権の範囲について、はたして裁決がどこまで個別具体的に定立できるのか否かがまずは問題であろう。もし個別具体的な義務の定立が可能であるとしても、処分庁は、裁決によって定立された範囲内で裁量権の行使を行わなければならないものかどうか。また、処分の取消裁決を経た事案における法令違反要件の判断に当たって、処分庁の実体法上の一般的な義務が裁決によって個別具体的に定立されていることを「前提」に、処分庁の裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるか否かを検討する必要があるといえるのかどうか。そして、このような論理で裁決の拘束力に違反する行審法上の違法が認められるとしても、「是正の指示がその適法要件を充足しているか否かを客観的に審理判断すべきであること」と何ら矛盾するものではないといえるのかどうか、疑問は尽きない。
 私見では、これらの疑問にすでに答えているのが、まさに原審の「3.16高判」の裁決の拘束力否定論であると考える。したがって、「3.16高判」の裁決の拘束力否定論についての厳密な検討ぬきに話は進まないはずであるが、「9.4最判」はなぜかスルーしたのである。この点、仮に調査官がいうように、裁決によって処分庁の実体法上の一般的な義務が個別具体的に定立され、それによって画された範囲内で処分庁の裁量権の行使の逸脱・濫用が審査されるべきであるとするならば、最高裁は、なによりも先決問題として裁決が適法・有効に成立していることをまずは審査しなければならないはずであった。仮に調査官がいうところの、裁決による処分庁の実体法上の一般的な義務の個別的具体的定立権なるものを前提とすることが可能であるとしても、当該裁決は適法・有効に存在するものでなければならないのは当然であるからである。ところが最高裁は、上告受理申立理由のうち、裁決が違法・無効であるという沖縄県の挙げた理由を「重要でない」と早々に排除してしまっている(上告受理申立の骨子は、《資料1》を参照)。そもそも裁決の適法性・有効性を問わない裁決の拘束力論のごときは、法解釈の前提を欠く司法審査無用論である。「是正の指示に係る法令違反要件を審査するに当たって、処分庁は「処分庁の実体法上の一般的な義務が裁決によって個別具体的に定立されていることを前提に、処分庁に付与された裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるか否かを検討する必要がある」との調査官解説は、行政不服審査法上の審査と地方自治法上の是正の指示の法令違反要件審査とを直結するために知恵を絞ったものであろうが、それとても裁判所による適法性・違法性の審査を経た裁決でなければ、到底成り立つ議論ではない。

【原審「3.16高判」について】(「法曹」239頁)
 結局、調査官は、原審の判断について(「法曹」239頁)、原審は、裁決の拘束力に関する国の主張について、裁決の拘束力の作用を拡張し、関与取消訴訟において司法審査を受けられる普通地方公共団体の利益を害するものであるなどとして、国の主張を排斥したが、裁決の拘束力を前提に法令違反要件の有無を判断すべきことは、関係規定を適用することによって導かれるものであり、裁決の拘束力の作用を拡張するものとはいえない、と切り捨てている。「9.4最判」は、何らの理由を示さないまま「3.16高判」の裁決の拘束力否定論を無視したが、調査官もまた、「裁決の拘束力を前提に法令違反要件の有無を判断すべきことは、関係規定を適用することによって導かれる」とだけ述べて、「3.16高判」の判決内容に係る実質的な検討は何もしていない。
 より具体的にいえば、沖縄県知事の変更承認に係る事務は、たとい法定受託事務であるとしても、沖縄県という地方公共団体の事務であり、あくまでもその処理の第一次判断権は沖縄県にある。これに対して、上級行政庁でもない審査庁・裁決庁である国交大臣の裁決の適法性・有効性を絶対視するかのごとき調査官解説は、あたかも「裁決の適法性の推定」論のごとくであり、憲法が保障する地方自治保障とこれを具体化する1999年改正地方自治法の趣旨に反するものである。この点、以下、行審法による「裁決的関与」と地方自治法による「是正の指示」関与との間の関係の実態を含めて、「9.4最判」とこれを説明する調査官解説の「裁決の適法性の推定」論を批判的に検討する。

3-3. 「9.4最判」と調査官解説の「裁決の適法性の推定」論
   【裁決による裁量権の範囲の個別具体的定立論と裁決の拘束力の作用拡張論】

 調査官解説は、その結論にいたる法令違反要件の認定についての具体の検討において(「法曹」239頁以下)、以下のように述べる。すなわち、申請認容処分をすべきことを内容とする是正の指示に係る法令違反要件を満たすためには、申請認容処分をすべきことが羈束されているか、又は申請認容処分をしないことが裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることが必要であり、都道府県知事が申請を棄却した処分の違法を理由とする取消裁決後も当該処分と同一の理由に基づいて申請に対する処分をしない場合、都道府県知事は、裁決の趣旨に従った処分をすべきことを義務づけられているにもかかわらず、他に理由もないのに申請に対する応答をせず、これを放置していること他ならない。このような状況の下で都道府県知事が申請認容処分をしないことは、少なくとも裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるといわざるを得ない。したがって、法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分がその根拠となる法令の規定に違反するとして、これを取り消す裁決がされた場合において、都道府県知事が当該処分と同一の理由に基づいて申請認容処分をしないことは、法令違反要件を満たすといえる、として「9.4最判」の趣旨を説明する。
 ただ、これには、「9.4最判」が沖縄県の法定受託事務の処理が違反するという「法令」について特に明示していないことについての注釈が付けられている(「法曹」244頁の(注17))。つまり、「上記処理が行審法に反することが明らかである上、本件裁決が公有水面埋立法によってY(ママ・脚注11)に付与された裁量権の範囲を個別具体的に明らかにしたものであることからすると、本件裁決の拘束力に反する上記処理は、同法によって付与された裁量権の範囲の逸脱又はその濫用にほかならず、同法に反するものであるともいえることを踏まえたものと解される」としている。この部分の調査官の叙述は誤植もあってわかりにくいが、おそらく以下のように解読できよう。①国交大臣の取消裁決後に知事が新たな処分を行わないことに行審法の裁決の拘束力に違反する違法があることは明らかであるが、行審法が直ちに地方自治法245条の7の「法令」に該当するわけではない。しかし、②行審法に基づく国交大臣の裁決は、公有水面埋立法によって与えられた知事の処分に係る裁量権の範囲を個別具体的に画すものである。したがって、③知事の処分が、裁決によって個別具体的に定立された裁量権の範囲を逸脱又はその濫用に当たる場合には、公有水面埋立法によって付与された処分に係る裁量権の範囲の逸脱又はその濫用となり、公有水面埋立法に違反する違法となる。結局、④裁決の拘束力に違反する沖縄県の事務処理には、行審法に違反する違法であるとともに、公有水面埋立法という法律(実体法)に違反する違法が認められるということになる。この論理の帰結は、地方自治法245条の7の法令違反要件に係る「法令」は、あくまでも実体法としての公有水面埋立法であり、本件是正の指示は公有水面埋立法に違反する違法を理由に行われた適法な関与である、ということになるのだろう。
 以上、是正の指示の法令違反の「法令」はあくまでも実体法であり、本件では公有水面埋立法であるということになる。ただし、裁決が知事の処分に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用による違法があるとの判断をしている限り、この裁決の拘束力をとおして、地方自治法245条の7の法令違反要件を満たす違法にもなるというように、「9.4最判」と完全に同期する趣旨が明白に読み取れる。そのぶん「9.4最判」だけを読んでも、当該「法令」が何かが明示されていなことから、是正の指示の法令違反要件と行政不服審査法の違法性との関係がわかりにくいところ、連結器としての裁決の拘束力論の意味がよく理解できる。
 このように、調査官解説は、行政不服審査法の適用と地方自治法の法令違反要件とを直接する解釈をとるものであるが、このような解釈は、法令所管大臣=審査庁である国交大臣の裁決の終局性を過度に承認するものではないか。裁決の拘束力否定論を採用する「3.16高判」さえも、最高裁令和4年12月8日第一小法廷判決(民集76巻7号1519頁)をよりどころにして、「一定の裁決の終局性」を認めるところではあるが、「9.4最判」と本件調査官解説は、あまりにも裁決を絶対視するものなっていないか。このような疑問から出発すると、法律(実体法)が裁量権を含む一般的な権限と義務を処分庁に授権し、裁決がこの処分庁の裁量権の範囲を個別具体的に定立するといった前提的理解が、そもそも成り立つかどうか。換言すれば、この前提的理解がすでに「3.16高判」がいうところの裁決の拘束力の作用拡張論に陥っているのではないかという疑問が沸いてくる。


【「審理員意見書」・「裁決書」と「是正の指示書」の比較検討】
 調査官が、「処分の違法を理由にこれを取り消す裁決を経た事案における法令違反要件の判断に当たっては、処分庁の実体法上の一般的な義務が裁決によって個別具体的に定立されていることを前提に、処分庁に付与された裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるか否かを検討する必要がある」としながら、「是正の指示に係る関与取消訴訟において、是正の指示がその適法要件を充足しているか否かを客観的に審理判断すべきであることと、何ら矛盾するものではない」というためには、その見解が単なる「裁決の拘束力の作用拡張論」ではないことが立証されなければならない。
 この点、すでに述べたように、取消判決の拘束力と同様の意義を裁決の拘束力が有すると解するためには、裁決が適法・有効に成立していることが不可欠の前提条件である。つまり、裁決に「一定の終局性」を承認するとしても、裁決の適法性・有効性に関する裁判的統制を欠くようでは、裁決が「終審としての裁判」になってしまうとの批判を免れないことになる(脚注12)。ここでは、本件における裁決にいたる審査庁である国交大臣による審査請求の審査過程と同裁決書の内容を具体的に検討することで、調査官が信頼するほどに、裁決に実体法が与えた裁量権の範囲の個別具体的定立権を認め、これをもって処分庁の裁量権の行使の逸脱・濫用の瑕疵の有無を判断し、裁決の拘束力を介して、知事の処分に公有水面埋立法に反する法令違反が認められることができるとまでいえるかどうかについて検討する。
 調査官がいうように、「9.4最判」では、国交大臣の裁決における知事の処分に係る実体的判断が是正の指示の適法性を決める決定的な要素とされている。ただ、国交大臣の裁決にいたる過程をつぶさにみると、国交大臣の「裁決書」は、国交大臣に指名された審理員(行審法9条)が提出した「審理員意見書」に基づいており、その内容は実質的にまったく同じである。これはよくある話と承知しても、この「裁決書」と「是正の指示書」の内容が、やはり実質的にまったく同じであることは看過しがたい。審理員意見書、裁決書及び是正の指示書を比較対照すると、まったく同じ内容であることに驚かされる。これでは、「9.4最判」は、国交大臣の裁決の忖度を超えて、審理員意見書の実体的判断をそのまま認めてしまうかのごときものになってしまうではないか。まるで「審理員判決」に堕してしまうかのごときである。このことを最高裁が知ったうえで、国交大臣の裁決における実体的判断をそのまま認める判決(裁決による裁量権の範囲の個別具体的定立論)であるとすれば、これはもう「裁決の適法性推定」論であり、司法権の役割放棄というしかない。
 この点、「3.16高判」が指摘するように、裁決と是正の指示がそれぞれ内容も法的効果も異なる制度であるとすれば、専ら国民の権利救済を目的とする行審法の裁決(「裁決的関与」)と、専ら地方公共団体の事務処理の適正の確保を目的とする是正の指示(自治法関与)とは、内容も法的効果も違うものだから、その適法性の審査の内容も審査手続も自ずと異なるものでなければならないはずである。たとえば本件裁決は、国交大臣が知事の上級行政機関でないことから、知事の処分を取消すことはできても変更承認処分を求めることまではできない。他方、是正の指示は、「違反の是正又は改善のため講ずべき措置」を講ずるために変更承認処分を求めることも可能だろう。そうすると、裁決と是正の指示の適法性・違法性審査は、自ずとその審査の範囲も内容も密度も異なってしかるべきである。しかるに、本件では、審理員意見書=裁決書=是正の指示書となっており、実質的にはまったく同じものである。これでは、それぞれの制度趣旨が活かせるはずがない。換言すれば、本来異なる趣旨・目的の行審法上の「裁決的関与」と「自治法関与」(是正の指示)が、関与の主体、目的、内容および手続のいずれにおいても、不当に連結されており違法ではないかという合理的な疑いが残るところである。「裁決の適法性の推定論」は、成り立たない。
 繰り返しになるが、調査官は、「処分庁は、改めて申請に対する処分をするに当たり、実体法上付与された裁量権を、裁決によって個別具体的に定立された範囲内で行使すべきものと解される。したがって、本件のように処分の違法を理由にこれを取り消す裁決を経た事案における法令違反要件の判断に当たっては、処分庁の実体法上の一般的な義務が裁決によって個別具体的に定立されていることを前提に、処分庁に付与された裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるか否かを検討する必要があると解される。そして、このことは、是正の指示に係る関与取消訴訟において、是正の指示がその適法要件を充足しているか否かを客観的に審理判断すべきであることと、何ら矛盾するものではない」などといっている場合ではない。行審法においては裁決の適法性審査は独自に行い、これに不服がある当事者は抗告訴訟で裁判的救済を可能とし、他方、是正の指示に係る関与取消訴訟においては、是正の指示がその適法要件を充足しているか否かについて、客観的に独自の適法性審査を行うべきである。「9.4最判」や調査官解説のように、その適法性が定かでない裁決の実体的判断を鵜呑みにする「裁決の適法性の推定論」を前提に、両者を裁決の拘束力などで不当に連結することを許し、最高裁が実体的判断回避をなすなどは許されるはずがない。((【資料2】の「【対照表】審理員意見書、裁決書、是正の指示書」を参照)

おわりに〜最高裁の実体的判断回避論を支える調査官解説
 本稿の結論は、以下のようである。国が、国の機関である防衛省沖縄防衛局をして、沖縄県知事の処分に対して、地方自治法255条の2の審査請求を行わせ、審査庁としての国交大臣が知事の処分を取り消す裁決を行い、当該裁決が適法であることを所与のものとして、当該処分の実体的審査はすでに完結したものとみなして、当該裁決に従わない知事の処分を取り消すだけでなく、今度は国交大臣が是正の指示でもって、知事に新たな処分をすることを義務づける関与を行う。この関与の前提として裁決の拘束力に服することを義務づけ、是正の指示の関与取消訴訟においても、最高裁は、裁決の適法性・違法性審査はすることなく、知事の当該処分そのものの実体審理は一切行わない。これは、裁決によって処分の実体的審査は十分であり、この裁決に従わない知事の行為に対しては、裁決の拘束力に反する違法を理由にする是正の指示を行えばよい。知事の当該処分に対する是正の指示がその適法要件を充足しているか否かを客観的に審理判断する必要などはない。これが裁決の拘束力肯定論を媒介にした「裁決の適法性の推定」論に立つ最高裁の実体的判断回避の論理といえる(脚注13)。
 調査官は、「本判決の意義」として、「9.4最判」は、「関係規定を適用することによって導かれる帰結に加え、国と普通地方公共団体との間の紛争処理における規律の趣旨をも考慮して、判旨のとおり判示したものと考えられる。そして本判決の説示に照らせば、代執行における法令違反要件(地方自治法245条の8第1項)も同様の考え方が、妥当するものと解される」とする。実際、この指摘のとおり、是正の指示の関与取消訴訟において、知事の当該処分の違法性は確定したものとして取り扱われ、代執行等関与における代執行訴訟においても、知事の当該処分の実体審理は行われることはなかった(脚注14)。このように「裁決の適法性の推定」論は、代執行訴訟における要件審査まで影響を与えている。実際、変更承認に係る福岡高裁那覇支部は、最高裁が是正の指示の関与訴訟で確定した知事の処分の法令違反が代執行訴訟要件である法令違反要件を満たすものと判断した。最高裁の実体的判断回避論は、いまや裁判所全体の実体的判断回避の危機を呼び起こすものとなっている。このような裁判所による国の自治体への関与統制の放棄を、国地方関係訴訟における司法的統制の死といわずに何といおうか。
 本稿では、専ら調査官の裁決の拘束力論に焦点を合わせて検討してきたが、そもそも論でいえば、地方自治法255条の2第1項の審査請求人適格(不服申立人適格)に係る「固有の資格」論や、行政不服審査法における「行政庁の処分」論など、解明されていない問題は山積している。あらためての「辺野古訴訟」の総括が必要であることだけを指摘して、今は稿を閉じたい。




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