1 本事案の概要等
(1) 本件事案は,市街化調整区域において,予定建築物等の用途を専用住宅とする訴外人からなされた都市計画法29条1項に基づく開発行為の許可申請に対し,鎌倉市長が平成24年12月28日付けで開発許可(以下「本件許可」という。)したところ,これに対して周辺住民ら(以下「Xら」という。)が原告となって,本件許可の取消しを求めた事案である。
なお,本件訴訟は,平成25年12月25日に提訴されたが,それまでに本件許可に関する工事が完了し,鎌倉市長は同年12月13日に検査をし,その結果当該工事が本件許可の内容に適合していると認められるとして,訴外人に,同月26日付けで検査済証を交付している。
(2) 争点
本件事案においては,市街化区域内にある土地を開発区域とする開発許可について,当該開発許可を受けた開発行為に関する工事が完了し,検査済証が交付された後においては,その取消しを求める訴えの利益は失われるとした平成5年9月10日最高裁第二小法廷判決(以下「平成5年最判」という。)及び同趣旨の平成11年10月26日最高裁第三小法廷判決(以下「平成11年最判」という。)が,市街化調整区域内における土地を開発区域とする場合にも妥当するのかが争われた。
(3) 訴訟経過
第1審判決は,平成5年最判及び平成11年最判を参照し,開発行為に関する工事が完了し,検査済証も交付された後は,開発許可が有する本来の効果は既に消滅しており,他にその取消しを求める法律上の利益を基礎付ける理由もないとして,訴えの利益はないと判断し,訴えを却下した。
これに対し,原判決は,本最高裁判決と同様の理由により,訴えの利益が認められるとして,第1審判決を取消し,差し戻す旨の判決をした。
原判決に対し,鎌倉市が上告受理の申立を行ない,最高裁第一小法廷がこれを受理して審理した結果,原判決の判断が正当であるとして,上告を棄却したのが本件最高裁判例(以下「平成27年最判」という。)である。
2 解説の骨子
(1) 林俊之調査官(当時。以下「林調査官」という。)は,取消訴訟の訴えの利益について,一般論を述べ,「訴えの利益の存否については,処分が取消判決によって除去すべき法的効果を有しているか否か,処分を取消すことによって回復される法的利益が存するのか否かという観点から検討されることになる。」とし,本件の検討にあたっての基本的視点を提示する。
そして,その後,都市計画法における開発行為に対する規制について概観し,これまでの判例法理等として,「一般に,それを受けなければ一定の工事を行なうことができないという法的効果が付与された処分について,当該処分に係る工事が完了した後においても当該処分の取消しを求める訴えにつき訴えの利益が肯定されるためには」,?@当該処分に工事の結果を適法なものとして通用させる法的効果が併せて付与されている場合(当該処分が存在することによって違反是正命令等を法律上出すことができない場合等),?A処分が取消された場合,法律上原状回復義務(例として公有水面埋立法35条)や違反是正命令を発する義務が生ずるなど,当該処分の取消しに国民の権利利益を救済するための法的効果が付与されていることを要すると解されているとする。そして,このような考えに基づき,建築物の建築工事完了後における建築確認(建築基準法6条3項)の取消しを求める訴えの利益が否定されている(最判第2小法廷判決昭和59年10月26日民集38巻10号1169頁。以下「昭和59年最判」という。)ことを指摘する。
(2) 次に,平成5年最判,平成11年最判の内容を紹介している。
ア 平成5年最判は,都市計画法29条による許可を受けた開発行為に関する工事が完了し,当該工事の検査済証が交付された後においては,上記許可の取消しを求める訴えの利益が失われる旨判示しているとし,その根拠として同法81条1項1号に基づく監督処分は,上記許可が取消されなくともなし得る(法的障害とならない)こと,仮に開発許可が違法であるとして取消されても,是正命令を発すべき法的拘束力を生ずるものでもない旨判示したことを指摘する。
イ 平成11年最判の事例と平成5年最判の事例の相違点は,平成5年最判の事例は検査済証の交付のみならず,建築物の使用が開始されている事案であったが,平成11年最判は,開発行為に関する工事は完了し,検査済証が交付されて工事完了公告がなされていたが,建築確認がなされていない事案であった。そして,平成11年最判は,上記事案に相違点があっても,訴えの利益が失われる旨判示したことを紹介する。
ウ そして,平成5年及び11年最判と,平成27年最判との違いは,平成5年及び11年最判が市街化区域における開発行為に係る事例であったが,平成27年最判が市街化調整区域における開発行為であったことから,「当該開発許可が取消し判決によって除去すべき法的効果を有しているか否かという観点から更に検討を要する」と指摘する。
(3) そして,市街化区域と,市街化調整区域では,建築等の制限の態様が異なり,この違いは,「開発許可の有無によって法律上もたらされたものであり,開発許可の法的な効力であるということが可能であり,開発許可により,建築物の建築等につき,市街化区域においては,原則的な自由の状態が基本的に維持されるのに対し,市街化調整区域においては,一般的な禁止の状態から予定建築物等の建築等につき禁止が解除されるに至るということができる。このように,市街化調整区域内における開発許可については,当該開発許可を受けた開発行為に関する工事が完了し,検査済証の交付がされた後においても,当該開発許可に係る予定建築物等の建築等につき禁止が解除されるという法的効果が残っており,本件においても,Xらは,このような法的効果を排除することにより,本件開発区域における予定建築物の建築を回避して自らの法的利益を回復することが可能となる。」と説明する。なお,予定建築物等が第二種特定工作物の場合には,都市計画法43条1項の制限が及ばないため,本判決の射程は及ばない,とする。
(4) 加えて,本件第1審判決について「市街化調整区域において開発許可が取消されることによって生じる建築物の建築等が一般的に禁止されることによる法的効果は,周辺住民にとって,違反是正命令や予定建築物等の建築等が可能であることを前提とした建築確認による規制では包摂し得ない効果があると考えられ,第1審判決の挙げる事情をもって開発許可の取消しを求める訴えの利益を否定することはできないものと解される。」とする。
(5) 林調査官は,平成27年最判の意義として,「平成5年最判及び平成11年最判を前提としつつ,市街化調整区域に係る開発許可の法的効果を検討した上,当該開発許可を受けた開発行為に関する工事が完了し,検査済証が交付された後においても訴えの利益が存続する旨を明らかにしたものであり,理論上及び実務上重要な意義を有するものと考えられる。」として,平成5年最判,平成11年最判と整合的に捉えている様である。
1 はじめに
(1) 平成27年最判に対する林調査官の最高裁判所判例解説について
平成27年最判に対する林調査官の最高裁判所判例解説(以下「本件調査官解説」という。)は,平成27年最判を,従前の裁判例(昭和59年最判,平成5年最判,平成11年最判)を前提に整合的に捉え,市街化調整区域における開発許可の取消しに関し,狭義の訴えの利益を認めることができる事例として説明している。
このような説明は,平成27年最判が,平成5年最判や平成11年最判を引用していることからして,従前のこれら最高裁判例を変更したものではないと考える立場からは,むしろ当然のことであるといえる。
ただ,本件調査官解説を詳細に検討すると,平成5年最判や平成11年最判を変更する萌芽を見て取ることができるように思える。
平成5年最判や平成11年最判(平成27年最判も含めて)の判断の基礎となっている昭和59年最判は,建築基準法6条1項に基づく建築確認について,当該建築確認に係る工事の完了後は,同確認の取消しを求める訴えの利益が失われる旨判示している。その理由については,既に述べたところであるが,素人的な感覚として,語弊を恐れず,卑近な言い方をするならば,「やったもの勝ち」を認めていることにならないのだろうか。違法な建築確認の存在が,検査済証の交付を拒否し,または違反是正命令を発する上において法的障害にならないとしても,行政が当該違法建築に対して,検査済証の交付を拒否し,又は違反是正命令を発するとは限らない(昭和59年最判はこの点も狭義の訴えの利益を失わせる理由としている。)のであるから,狭義の訴えの利益が認められず,訴えが却下された場合,違法建築が放置される可能性が少なからずあることになる。そうであれば建築基準法に違反しながらも,何らかの理由で建築確認を得た者が,当該工事を完成させることにより,違法状態を維持することを裁判例は認めていることになるであろう。
同様の問題が,都市計画法に基づく開発許可についても生じうるところであり,平成5年最判や平成11年最判は,昭和59年最判を前提としているのである。
少なくとも,平成5年最判については,多くの批判が学界や実務家からなされているところである(脚注1)。
平成27年最判は,市街化調整区域における開発許可の取消しについて,狭義の訴えの利益を認めた裁判例であり,この点については大いに評価されるべきであるが,その判断の論理を推し進めることにより,平成5年最判や平成11年最判の判例変更の可能性がありうるのか,本件調査官解説を踏まえ,以下検討する。
2 都市計画法における開発行為に対する規制
(1) 平成27年最判や,平成5年最判,平成11年最判を検討する前提として,都市計画法における開発行為に関する規制について,その概略を確認するのが有用である。
「都市計画法は,都市計画区域について無秩序な市街化を防止し,計画的な市街化を図るため必要があるときは,都市計画に市街化区域と市街化調整区域との区分を定めることができるものとし(7条),上記の区分に応じて開発行為に対する規制を行っている。その規制の概要は,次のとおりである。
ア 都市計画区域又は準都市計画区域内において開発行為を行う者は,原則として,あらかじめ,都道府県知事又は指定都市等の区域内にあっては当該指定都市等の長(以下「知事等」という。)の開発許可を受けなければならない(29条1項)。
イ 知事等は,申請に係る開発行為が33条1項各号に定める許可基準に適合しており,かつ,その申請の手続が同法又は同法に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは,開発許可をしなければならない(同項)。市街化調整区域に係る開発行為については,同条に定める要件に該当するほか,当該申請に係る開発行為が34条各号のいずれかに該当すると認める場合でなければ,知事等は,開発許可をしてはならない(同条)。市街化調整区域に係る開発行為については,同条に定める要件に該当するほか,当該申請に係る開発行為が34条各号のいずれかに該当すると認める場合でなければ,知事等は,開発許可をしてはならない(同条)。
ウ 開発許可を受けた者は,当該開発行為に関する工事を完了したときは,その旨を知事等に届け出なければならず(36条1項),知事等は,上記届出があったときは,当該工事が開発許可の内容に適合しているかどうか(脚注3)について検査し,その検査の結果当該工事が当該開発許可の内容に適合していると認めたときは,検査済証を当該開発許可を受けた者に交付し(同条2項),当該工事が完了した旨を公告しなければならない(同条3項)。
エ 開発許可を受けた開発区域内の土地においては,上記公告があるまでの間は,知事等が支障がないと認めた場合等を除いては,建築物を建築し,又は特定工作物を建設してはならない(37条1号)。そして,上記公告があった後は,当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築物又は特定工作物を新築し,又は新設してはならず,また,建築物を改築し,又はその用途を変更して当該開発許可に係る予定の建築物以外の建築物としてはならない(42条1項本文)。ただし,市街化区域において用途地域等が定められているときに行う建築物及び一定の第一種特定工作物の建築等には,上記の制限は及ばない(同項ただし書)。
なお,市街化調整区域のうち開発許可を受けた開発区域以外の区域内においては,知事等の許可を受けなければ,原則として,一定の建築物を除く建築物を新築し,又は第一種特定工作物を新設してはならず,また,建築物を改築し,又はその用途を変更して一定の建築物以外の建築物としてはならない(43条1項)。」(以上平成27年最判)
(3) 違反是正命令
上記開発行為に違反した場合,国土交通大臣,都道府県知事又は市町村長は,一定の場合(81条1項1ないし4号)に該当するものに対して,「この法律の規定によつてした許可,認可若しくは承認を取り消し,変更し,その効力を停止し,その条件を変更し,若しくは新たに条件を付し,又は工事その他の行為の停止を命じ,若しくは相当の期限を定めて,建築物その他の工作物若しくは物件(以下この条において「工作物等」という。)の改築,移転若しくは除却その他違反を是正するため必要な措置をとることを命ずることができる。」としている(違反是正命令)。
3 これまでの「狭義の訴えの利益」に関する判例法理について
(1) 林調査官の本件調査官解説
(2) 本件調査官解説の問題点
上記林調査官の解説は,以下の様な問題点を含んでいる。
すなわち,工事完了公告がなされた後,都市計画法42条1項によって,当該開発区域内における当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築等が原則として禁止されるが,これは市街化調整区域のみに対する規制ではない。林調査官も「原則として」と留保しているように,都市計画法42条1項但書において,本文の適用を除外しているのは,知事の許可がある場合,又は「用途地域,特別用途地区,特定用途制限地域,流通業務地区又は港湾法第39条第1項の分区が定められた地域以外の区域」(開発許可制度研究会編「最新開発許可制度の解説 第三次改訂版296頁)であって,市街化区域であっても,用途地域等が定められていない場合には,依然として予定建築物等以外の建築等が禁止されることになっている。また,開発許可を受けた開発区域内の土地においては,工事完了公告があるまでの間は,建築物を建築し,又は特定工作物を建設してはならないとの制限がある(37条1号)。
そうであれば,市街化区域においても,用途地域等が定められていない場合には,当該開発許可を受けた開発行為に関する工事が完了し,検査済証の交付がなされた後においても,なお,当該開発許可に係る予定建築物等につき禁止(37条1号による)が解除されるという法的効果が残ると考えることが可能である。
このように,市街化区域における開発許可の取消しにおいても,市街化調整区域と同様に考えることができそうであるが,この点について,林調査官は何ら触れていない。平成5年判決と,平成27年判決を整合的に捉えるのであれば,上記の点について,言及して然るべきである。
(3) 林調査官は,平成5年最判を無批判に肯定しているか
林調査官は,平成5年最判を明確に批判していない。
しかしながら,本件調査官解説457頁(注7)には,開発許可と建築確認との関係に着目し,開発行為に関する工事が完了し検査済証が交付された後においても,開発許可が取り消されれば,適合書面(建築基準法施行規則1条の3第1号ロ(1),表二第77項等,3条5項,都市計画法施行規則60条)の交付が受けられず建築確認申請が受理されなくなることを理由に訴えの利益を肯定することができないかが「一応問題となる。」とし,「議論の余地は残されているようにうかがわれる。」として,金子正史教授の「まちづくり行政訴訟」1頁以下を摘示する。
また,本件調査官解説457頁(注9)において,林調査官は,平成5年最判等に対する多くの批判があることを指摘しているところである。そして,林調査官は,これら平成5年最判に対する批判につき,これに積極的に反論し,平成5年最判を擁護する様な論述を行なっていない。
(4) 平成27年最判の射程について
(5) 「狭義の訴えの利益」以外に関する調査官解説の問題点
本件調査官解説(注14)には,平成27年判決では判示していない原告適格の有無について,言及がなされ「周辺住民の原告適格を肯定することは困難であるように思われる。」との記載がなされている。係る記載は,本件調査官解説で扱っている争点とは別の争点に関するものであり,あくまでも林調査官の私見であると考えられるが,このような記述が差し戻し後の裁判に対し事実上の影響を与えることはないであろうか。
調査官解説としては,対象となる最高裁判決において判断された事項に対する言及に限るべきではなかろうか。
4 狭義の訴えの利益に関する私見
(1) 訴訟要件としての狭義の訴えの利益
行政事件訴訟法9条1項括弧書において「処分または裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有するもの」について原告適格を認めるとし,所謂「狭義の訴えの利益」を規定している。
これは,行政訴訟が基本的に国民の権利利益の侵害に対する救済であることから,取消しの対象となる処分又は裁決が存在することが前提であるものの,これらが存在しなくなった後においても回復すべき法律上の利益がある場合には訴えの利益を認める趣旨の規定である。
このように,狭義の訴えの利益は,より広く訴えの利益を認める方向に解釈すべきである。
(2) 「回復すべき法律上の利益」について
何をもって,「処分または裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有するもの」と解するのか,については,当該処分又は裁決の内容,効果等によって個別に判断されているようである。例えば,本稿において検討している工事の完了等によって訴えの利益が否定された例としては,建築確認の事例や,市街化区域における開発許可を上げることができる(昭和59年最判,平成5年最判,平成11年最判)が,公有水面埋立免許については,これが取消された場合において免許を受けた者が原状回復義務を負うことから,埋め立て工事完了後も同免許の取消しを求める訴えの利益が認められている(条解行政事件訴訟法第4版315頁)。また,土地改良事業の施行認可処分について,工事が完了しただけでは訴えの利益は消滅しない旨の裁判例もある(最判平成4年1月24日判決民集46号1巻54頁)。
しかし,狭義の訴えの利益の問題は,訴え提起の要件としてだけでなく,訴え維持の要件でもあり(条解行政事件訴訟法第4版317頁),国民の権利救済の観点から広く認められて然るべきである。
(3) 判決の拘束力との関係
行政事件訴訟法33条1項は,「処分又は裁決を取消す判決は,その事件について,処分又は裁決をした行政庁その他関係行政庁を拘束する。」と規定する。この状況は一般に判決の「拘束力」を認めた条項であると理解され,「拘束力」は判決の既判力を超え,処分行政庁及び関係行政庁に対して,判決理由中の判断に基づく一定の作為を義務付ける内容の効力(特殊効果説)であると理解されている(条解行政事件訴訟法第4版661頁以下参照。)。
行政事件訴訟判決の拘束力は,上記の理解からすれば,手続法上の効力ではなく,判決に基づく処分行政庁等に対する実体上の義務であると解することができる。
そうす
また,拘束力によるのではなく,義務づけ訴訟や差止訴訟を用いて権利救済を図るべきであるとの批判が予想されるが,これらの訴訟の訴訟要件が厳しいことや,必ずしもこれらの訴訟に引きなおすことができない以上,権利救済の観点から妥当な批判とはいえない。拘束力は,あくまでも司法判断を尊重した行政活動を行なうように求めるものであり,一義的な義務づけを必ずしも予定していないのであるから,このように解しても不当な結果にはならないはずである。
(4) 平成27年最判と平成5年最判等との整合性
一見整合的に見える平成27年最判と平成5年最判であるが,子細に検討すると,必ずしも論理的に説明することが容易ではない。この点については,島村健民商法雑誌152巻2号183頁以下で検討がなされているところであり,「いずれの考え方も解釈上の何点を抱えている。その原因はつまるところ,本判決が,平成5年最判を否定することなく,本件の訴えの利益の存続を認めようとした点にある。そのことによってもたらされた解釈の歪みを除くためには,結局,平成5年最判を見直すよりほかないのではないかと思われる。」とし,平成27年最判は,平成5年最判等を見直す切っ掛けとなり得ることに言及している。
(5) 結び
平成27年最判は,以上検討したように,平成5年最判等を見直す切っ掛けとなり得る判断を行なっているものといえる。この点について,林調査官の調査官解説は,明言しないものの,少なくとも判例変更の萌芽が存在することについて否定はしていないものと考えられる。
本稿は,あくまでの調査官解説批評として論述したため,平成27年最判の判例評釈としては不十分極まりないところである(都市計画法の規制との関連で,より詳細な検討をする必要がある。特に都市計画法29条に基づく開発行為と,これに伴う建築制限が何時,どの様に行なわれるのか,違反是正命令がどの様な場合に発せられるのか等を踏まえ,平成27年最判や平成5年最判を再度検討する必要があるところである。)。
しかしながら,調査官解説の批評を行なうことにより,今後の判例変更の可能性を僅かでも見出すことができたと考えている。
拙稿が今後の議論の叩き台になればこの上なく幸甚である。
(参考文献として)
原編著 南博方 条解行政事件訴訟法 第4版 弘文堂
安本典夫著 都市法概説(第3版) 法律文化社
金子正史著 まちづくり行政訴訟 第一法規
林俊之 ジュリスト1500号129頁 最高裁時の判例
岡田正則 ジュリスト臨時増刊 1505号43頁
島村健 民商法雑誌152巻2号183頁
藤代浩則 専修ロージャーナル13号65頁
洞澤秀雄 南山法学40巻1号1頁
下山憲治 法律セミナー増刊(新・判例解説Watch)19号45頁
楠井嘉行・飯田真也 はんれい最前線「市街化調整区域における開発許可の取消しに新判断」 判例自治410号5頁
(筆者不明)判例タイムズ 1018号189頁
綿引万里子 最高裁判所判例解説民事編840頁
古城誠 ジュリスト臨時増刊(平成5年重判解説)1046号60頁
開発許可制度研究会編 「最新開発許可制度の解説 第三次改訂版」296頁
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